中編

愛しすぎて
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使用人時代、健治は友人候補に名乗り出る誰よりも、忍を側に起きたがった。
掃除や母の手伝いは、嫌ではない。
何より、健治に呼ばれる事が嫌だった。
意地悪な命令や、暴力。
冷たい笑み。
何度も母に訴えては、なだめられた毎日。


『忍、お前の父親はなんでいないの』


働き始めて1年が経つ頃、窓拭きをしている忍の側に立ち、健治はそんな事を聞いて来た。
その時にはもう、手伝いを邪魔するようにやってくるのが日常になっていた。

『……病気で、死んだそうです』

まだ6才にして、忍は敬語を完全に使いこなせるようになっていた。

『じゃあ、お前は捨てられたんだな』
『…違います』

細められた目に嫌悪した。
いたぶる時の目だ…
黙って窓拭きに集中しようとする。

『違わないだろ』

無理矢理、腕を引かれた。
既に体格差があり、逃げられないように窓際に追い詰められ、覗き込まれる。

『お前の父親はお前を大事に思う気持ちが足りないから、死んだんだ。捨てたようなもんじゃないか』

そう言って、健治は心からおかしそうに笑った。
父との記憶はぼんやりとしたものだったけど、愛されていたと思う。
おぼろげに浮かぶ優しい父の顔…
大切な思いを、侮辱された気分だった。

『だったら…あなたのお母さんだってそうじゃないか!』

思わず、立場を忘れて叫んでいた。




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