中編

愛しすぎて
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宮田健治(ミヤタケンジ)と大川忍(オオカワシノブ)は、同じ年だ。

忍は母親とともに、この宮田家の屋敷に住み込みで働いていた。
5才の時から11年間、健治の使用人として。
いくつもの事業を起こし成功させ、当時既に大企業である宮田グループの頂点に立っていた男、宮田啓介(ミヤタケイスケ)。
忍が産まれてすぐに父親に死なれ、途方にくれた母親が唯一頼れる人間だった。
啓介は健治の父であり、忍の父の親しい友人でもあったからだ。
母親は必死で宮田家の元で働き、養ってくれたが1年前に病死した。
忍は屋敷を出て、1人暮らしを許された。

そう、解放されたのだ。

家に尽くすのは母の生涯まで…というのが契約期限だったから。
契約の見返りは、忍が成人するまで生活に心配がない財産として渡された。


それなのに、健治と忍の関係は変わらない。
こうして呼ばれれば屋敷に来て有無を言わさず、抱かれる。

完全なる主従関係。

3年前、彼の父である啓介の死から健治に全ては引き継がれた。
地位も、莫大な遺産も。
若いながら、健治は宮田家の当主だ。
けれどもここに初めて訪れた時から、健治が忍の主人のようなものだった。
忍には、5才から見えない鎖がある。

『お前の母親、父様の家政婦になるんだろ』

啓介に似たのか、綺麗な顔立ちも、落ち着いた言葉も、自分と同じ年とは思えなかった。
上に立つべくして生まれた人間のオーラを、子供ながらに感じた。
出会った時、新しいオモチャを見るように、健治は笑った。

『じゃあ、お前は俺の召使だ』

あの笑顔の瞬間、カチャリ、と鍵をかけられた音が聞こえた気がする。




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