中編

星なき夜も
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いつもにこにこ章ちゃん。
…近所でも、そう呼ばれてた。
聞こえはいいが、俺からすれば理解できない。
ただのいいこちゃんだ。
23になっても、ずっと同じ。
今どきの子供より無垢なままだ。
文句も言わず、いつもにこにこ笑っている…詩に出て来る人物のようで、イライラする。

「聖(セイ)ちゃんは学校楽しい?」
「…別に」
「この前歩いてるの、みかけたよ。友達もたくさんいるみたいで楽しそうだな」

章の勤める学校は、俺が通う高校から駅の中間にある。
要するに、通学路。
心底嬉しそうに言われて、俺はじっと章を見た。
まるで生徒扱いな口調と笑顔に、イライラはつのる。
俺は立ち上がって空を見上げた。
たくさんの星。
この公園は昔から、星がよく見える。

「あ、そうだ」

章はブランコから下りて、俺の隣に駆け寄ってくる。
何やらごそごそとする気配がして、空に伸ばされた手。
水色の折り紙で作られた星が、かざされる。

「真紀ちゃんがくれたんだ」

並ぶと俺の肩あたりにある章の横顔。
嬉しそうに空を見上げている。

「…本当はいい子なんだ。真紀ちゃん。家庭でいろいろあってさ、最初は全然話しもしない子で。でもね、今はこうして感情をぶつけてくれるようになった」
「…は、すげぇ感情表現の仕方だな」



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