中編

白日
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我が家の女は気性が激しい。
母親から受け継いだ血。
姉、妹の言い争いは幼い頃から見てきたし、些細な事で競い合う。
2つずつ離れている俺は、一言でいえばそこに早い段階で順応した。
女姉妹相手に本気で競えば咎められ、負けを命じられる。
そんなの、馬鹿馬鹿しいと悟った。
冷静に一歩ひいて、間を取り持つ方が物事は上手くいく。
下手に熱くなるより、なんて楽なんだろうと思った。

そうやってうまく収める才能が、俺にはあった。

サッカー部では前線で、まとめ役。
昔から生徒会や部長やら、任されやすかった。
そういう役を担う事で、俺の才能にさらに磨きをかけた。


だから、工藤と会うまでは知らなかった。
一生気づかなかったかもしれない。
自分の本質に。



『なんでかな』

工藤は、口癖みたいによくそう言っては小さくはにかむ。

出会った時も、見るからにタイプが違う奴だな、と思った。
大人しそうで、同じ男とは思えない全く違う骨格、肌をしていた。
それなのにあんなに親しくなったのは、今でもよくわからない。

『なんでかな、俺、人見知りなのに。中里といると楽なんだよな』

工藤は物静かだが、心を開くとよく笑う。
俺に笑顔を向ける頻度が増えていくたびに、猫に懐かれたようなくすぐったい気分が生まれた。


1年の時、大きな試合で負けた。

学年では俺だけがメインで選ばれた、大事な試合。

悔しくて悔しくて。
それでも、普通にふるまっていた教室。
お前、冷静だよな。1年で唯一自分は活躍できたから、試合なんてどうでもいいとか思ってるだろ。
同じ部のクラスメイトに、皮肉混じりに言われた。

いつもなら軽くあしらえるのに、その時は全身の血がものすごい速さで回っていくのを感じた。

『悔しいに決まってるだろ』

静かだけど、妙に断言的にそう言ったのは、工藤だった。
それは負の感情を持つ俺を、一瞬で救ってくれたような気がした。
許された気がした。
あの言葉がなかったら、俺は相手を確実に殴っていた。
おかげでその場では冷静に対応ができたが、内心怒りは収まらず、その日は教室に戻らず屋上にいた。
工藤は、ただ側にいて空を見ていた。
横顔に尋ねた。

『…なんで、俺が悔しがってると思った?』
『なんでかな』

工藤は、困ったように俺を見た。
本当にわからないというような瞳で、真っ直ぐ俺を見ていた。
ただそう思えたんだよ、と小さく答えた。




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