中編

白日
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許さない俺を、許してほしい。


欠片も後悔していない俺を許して。


抑えて偽って、ただ見つめていようと思った。
でも駄目だった。
穏やかなままのいつかを選べなかった。
手を伸ばせない日々を選ぶには、もう餓えすぎてた。


  白日



「あれ?」
「あ…」

ペットボトルを二本手に持って、部屋のドアを開けると、工藤(クドウ)の動揺した瞳とぶつかった。
固まってしまった彼の近くで、TV画面が流れていた。
そこから女の喘ぐ声が、切れ切れに漏れる。

姉も妹も泊まり、両親は遅い。
週末の夕暮れ。
こんな日だからまあ、大音量でも大丈夫なのだが。

「ご、ごめん!見たいのをセットしようとしてたら、これが…!」

ちらりと視線を下ろすと、俺のDVDボックスがあった。

まだ、あったのか。
俺は小さく笑みを浮かべると、慌てて停止を押そうとする工藤の背後に近づいた。
AVごときで耳まで真っ赤だ。

でも俺は、もう知ってる。

「止めるなよ」

リモコンを持つ手首を掴み、首筋に唇を這わせた。
びくり、と工藤の身体が揺れる。

「中里(ナカザト)…?」
「こんなの、平気だろ。そのまま見てたらいい」
「冗…談よせよ」
「なんで」
「なんでって…」
「工藤だって、もっといやらしい事されてるだろ」

そう言って耳の付け根に舌を這わせると、わかりやすく工藤の息がつまる。
皮膚が、しっとりしたものに変わるのが伝わってくる。

いつもきっちり着込んでくるプレスされたシャツの裾から、手を差し込んで抱き締めた。

「中里…今日はお勧めの映画見る…って…ぁあ…!」
「後でな」
「でも、これ…」
「つけてろよ」
「なん…で…ッ!」
「おんなじこと、してやる…」

画面では、女が丁度背後から抱き込まれ、胸を揉まれ、耳をなぶられて気持ちよさそうに声をあげていた。

『ぁん…!』

同じように俺は、工藤の胸に手を這わせ、耳を舐めしゃぶった。

「ぁ…あ…!」

映像のあげる声とは違った、少し低い声。
でもそれは、誰より俺を興奮させる声だ。




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