おさななじみ

おさななじみ《6》
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いつもより力のない呟きに、むしろ申し訳ない気持ちになった。
確かに慎とこうなったきっかけは、貴文から聞いた話が大きい。
けれど知りたがったのは自分だし、貴文が悪意を持って自分に話したのではない事はわかっていた。

「小原君が謝んないでよ。俺、大丈夫だから」
『なおちゃん…』
「心配かけてごめんね」
『…』
『小原、ちょっといい?』

誰かの声がした。

「あ…大丈夫?」
『あー…うん』
「じゃ、そろそろ切るね」
『なおちゃん』

遮るような声。

『これは慎にも言ったんだけどさ、諦めんの早いよ、2人とも。後悔しないの?』
「え…」
『あいつは聞く耳持たなかったけど。じゃあね』

ぷつり、と電話は切れた。
しばらく携帯を見つめる。
後悔…その言葉が強く頭に残った。


夕方を示す暗がりに、直人は窓を見た。
貴文との電話の後、ぼんやりしていたら時間だけ過ぎていた。
向こう側にある慎の部屋。
今日は、カーテンも閉められたままだ。
常に目の前にあった、安らげる場所。
なんだか遠く感じる。

「後悔…かぁ」

慎が離れていく事。
何年か先には、普通に受け入れられるのだろうか。
顔を合わせても、目をそらすだけの関係を。

「やだよ…そんなの」

あんなふうに言い合ったまま、大好きな慎の目も真っ直ぐ見ないまま、逃げて来た。
自分の本当の気持ちを、慎は知らない。知ってほしい。
結果、慎が離れて行くとしても、せめて気持ちだけは伝えたい。
たとえ迷惑がられても。
慎が帰って来たら、もう一度だけ行こう。
大好きだった向こう側、慎の部屋へ。

決意を新たにしてまだ1時間もたたないうちに、慎の部屋の明かりがついた。
ぎょっとして時計に目をやる。

「まだ6時前なんだけど…」

発表の日にしてはいくらなんでも、慎の帰宅が早い気がした。
途端に心がはやる。
もっと遅くなると思っていた分、急に弱気になる。
落ち着かなくて部屋をうろうろしたり、意味もなく携帯を手にしたりしてしまう。
そうやって10分位ロスしてから、今度は寝たきりでぼさぼさな髪が気になって、一階に下りた。
髪を整えて、顔を洗って、鏡の前の弱気な自分と格闘して。
部屋に戻ると、1時間近く経過していた。
すでに冬の外は真っ暗だ。
その暗さに妙に観念して、窓を開けた。
久々の冷たい空気を思い切り吸い、覚悟を決める。



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