おさななじみ

おさななじみ《2》
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休み時間で散り散りに生徒が話している教室の中、ドア口から慎の姿を探す。

「あ、いた!」

慎は、窓際の方で数人の友人と会話していた。

「さすが新田君。周りもレベル高いよねぇ…」

自分の置かれてる立場も忘れ、愛が横で羨望混じりの声をあげた。
呆れ気味で愛を見つつも、直人も納得なメンバーだった。
学年で上位の者や、サッカー部のエース。
他にも、目立つ部類の生徒ばかりだ。
その輪の中で大人びた表情をして溶け込んでいる慎が、どこか遠くみえた。
声すらかけずらい心境になる。

「おや、なおちゃん」
「…?」

ふいに後から引っ張られて、振り返る。
笑みを浮かべて貴文が立っていた。

「どうしたの?はるばると。愛ちゃんも」

にこ、と隣にいる愛にも笑いかけ、貴文は直人を見下ろす。

「あ、もしかして慎に会いにきたの?」
「いや、会いに…っていうか」

なぜか口ごもる直人をしり目に、貴文は大声で慎を呼ぶ。

「慎〜!なおちゃん来てるよ〜」
「お…小原君っ…そんな派手に…」

慌てて貴文の制服の裾を掴んで訴えたが、貴文はきょとんとした顔をしている。
慎の方におずおずと目をやると、慎だけでない周囲の友人もこちらを見ていた。
周りの視線に追われながら、慎がこちらに歩いて来る。

「…なんだ」

慎は表情を変えずに、直人の前に来た。
貴文は役目は終わったとばかりに、背後で愛に話しかけている。

「あ…あのさ、慎ちゃん、英語の教科書とノート持ってないかな?」
「あるけど」
「本当?あるって!」

思わず弾んだ声で振り返ると、愛の表情も明るくなる。
慎はちらりと後ろにいた愛に視線を走らせてから、直人を見下ろす。

「…で?」
「あ、それでね、どっちも借りれないかな?小笠原、次の授業であたるみたいなんだ。慎ちゃんのノートならばっちりだし」

ミーハー心と安心感から愛も目をきらきらさせて、直人に目配せをする。

「その考え方、どうにかしろ」
「……え?」

冷たい響きを持った言葉に、直人は慎を見上げた。

「学力ない奴ってのは、そういう所も人頼みなんだな」
「お〜い慎。きっついなぁ」

さすがに貴文が、苦笑しながらフォローを入れる。
厳しい口調に長年慣れている直人でさえ、今の慎の言い方は冷たく響いた。
見下ろす瞳にも、冷淡な色が浮かんでいる。




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