おさななじみ
□おさななじみ
《プロローグ》
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「慎ちゃんは今からまた勉強?」
「そんなの授業以外に必要ないだろ。中山から頼まれた英語のレポ作成だ」
さらりと返して、慎は鞄から用紙を取り出す。
直人は半身だけ起き上がった。
「じゃあ、今年も英語論文慎ちゃんがやるんだ」
「俺以外候補いないだろうが」
これまた当然のように返して、直人をねめつけるように見下ろす。
「お前こそ、とっとと帰って勉強しろ。人の半分しか学力ないんだから」
ごもっともな忠告に言い返す事もできず、せめてもの反発とばかりに直人は再び仰向けに横たわる。
「なんでまた寝るんだ」
「あーあ、どこで差がでちゃったかなぁ…」
鋭い突っ込みもスルーして、直人は純粋に疑問そうに呟いた。
慎は机のイスに腰掛け、呆れたように答える。
「…産まれた時からだろ」
容赦ない発言に頭に来る事もなく、ごろりと寝返りをうち時計を見やる。
「慎ちゃん〜まだ8時だよ」
「もう…だろ。帰れ、いい加減」
ぐずぐず極上ラグの柔らかさから離れたがらない直人を長い足で跨ぎ、慎は部屋のドアに向かう。
「どこいくの?」
「オマエと違って俺の夜は長いんだよ。コーヒー入れてくる」
「え、じゃあ俺も……」
言いかけて、本気で冷たい目付きをされた直人は慌てて口をつぐむ。
「いいか、俺が戻る前に帰れよ。でないと痛い目に合うぞ」
「…ハイ」
ドアが閉まると、直人はごろりと仰向けになり天井を見上げた。
物心ついた時から、自分の部屋の次に見慣れた部屋。
やや散らかった子供っぽい自分の部屋とは違って、慎の部屋はシンプルでいながら統一感を感じさせる。
慎の母親が昔からインテリア好きという事もあり、センスのよさが身に着いたのだろう。
黒いシンプルだけど高価そうな机とグレーのラグ、あとはこれまたよさげなボードにTVがある…それ以外余計な物は見当たらない。
いつ女の子来ても大丈夫だよなぁ…
ぼんやりとそんな事を考える。
自分の部屋なら、1時間は外で待っててもらわないといけない。
まだ階段の足音がない事を密かに耳で確認しつつ、直人はゆっくり瞬きをする。
慎が言っていたとおり、幼い頃から2人は対称的だった。
誕生前から隣同士で、お互いの親も仲がよい慎とは、自分が思い出せる範囲ですでに差があった気がする。