おさななじみ

わーにんぐ!文化祭
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「待って!ストップ!ち、違うってば!」

片手を突っぱねて抵抗する直人に、慎は眉を潜めてようやく動きを止めた。
その隙に逃れるように立ち上がると、乱れた襟元を手繰り寄せる。

「こ、これはそういう目的じゃないから!」
「サプライズ目的だろ。小原から聞いた」
「はぁっ!?」

どうやら貴文の罠にはめられたらしい。

「い、意味が違うよ!俺はこの格好で喫茶店やるの!」

頬を紅潮させて、突きつけるように握りしめていた用紙を見せた。
そこには
『3年2組喫茶☆テーマは浴衣で癒せる喫茶』
…と書いてある。

「…はぁあ!?」

慎らしくない、大きな声が響いた。



「反対だ」

詳しい内容を理解した後の慎の第一声に、直人は口を尖らせた。

「え?なんで!」
「こんなの女にやらせたらいいだろ。お前がやる意味がない」
「ひど!クラス投票で名前があがったんだよ!男子は2人しかいないんだから!」
「どうせ童顔で小さいからだろ」
「う…」

図星すぎて直人は口を閉ざした。
それにしても、あからさまに不機嫌になった慎が理解できない。
恋人関係になって1年、慎の態度は表向きは同じでもだいぶ甘くなったと思う。
時々、ひやひやするようなスキンシップを学校でも仕掛けてきたりもする。
こんなふうに辛辣に頭から反対するなんて、思いもしなかった。

「…でも決まったんだし」
「だったら別の格好にしろ」
「そんなわけにいかないよ」

いつになくキツイ言い方に直人がムッとすると、慎は小さく息をついた。

「当日は俺も忙しい。今までみたいに助けられない」
「なんだよそれ」

そう返しながらも、直人には心あたりがある。
中高と毎年、裏方に回っていた直人だが、いつもちょっとしたドジを踏む。
前日に控えながらに間違えて色を塗った時は、遅くまで塗り直し作業をしてくれた。
自分の発注ミスで材料が足りなくなった時、全クラスに掛け合ってくれたのも慎だ。
生徒会で多忙な立場にあるのに、フォローばかりさせてきた。
当時は心底ありがたいと思っていたが、今の直人には自己嫌悪もつきまとう。

「そもそもお前のクラスの発想は安易なんだ。出すメニューがケーキと飲み物だけなんて弱い。要は話題性に逃げたんだろ。3年にもなって、まだホステス的な事で客を集めるつもりか」

確かに、これも的を射てる。
過去に売り手を看板にするクラスでは、一般客とトラブルも起きている。




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