おさななじみ

わーにんぐ!文化祭
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「さむ…!」

夜を深める途端に寒くなる空気に、直人は首を竦めた。
まだまだ先に着る予定だったダッフルコートを、今身につけていてよかった。

慎から帰宅のメールがあり、こうしてベランダを渡ったのがもう9時過ぎだ。

「慎ちゃん入るよ」

部屋に顔を覗かせると、机に座っていた慎がこちらを振り返った。

「直人、今日は悪かったな」
「ううん、なんか忙しいみたいだね」

直人は、そろそろと足を踏み入れる。
直人の格好に慎は一瞬不思議そうにしたが、机の書類に視線をおろした。

「文化祭委員だけじゃ心配だから、支えてやれとか抜かしやがる。まったくあのぼんくらども」

何だかさっきも耳にしたような気がするフレーズは聞かなかった事にして、直人はさりげなく背後に回った。

「あのさ、俺っていつもは裏方だったでしょ?中学からずーっと」
「ああ?そうだな、お前はやらかすからな」
「う…でも今回は違うんです〜」
「そういえばお前のとこは喫茶店だったな」
「うん、そう。でね、ただやるだけじゃ他の組とのインパクトに欠けるかもって」
「確かにな。俺のとこも屋台だけど負けるつもりないからな」

慎のいるクラスは彼を筆頭に綿密にしただけあり、毎年売り上げも投票率もいい。

「そこはうちも対策があるからね」
「へぇ、どんな?」

くるりと振り返ったと同時に、直人は着ていたコートを脱ぎ捨てた。

「じゃん!」
「……」

得意気に腰に手をあてた直人の姿は、浴衣姿だった。

「中学に着た時以来のものだから短いかなぁ〜と思ったけど。どう?これなら…慎ちゃん?」

目を見開いたまま動かなくなる慎に気づき、直人は目の前で手の平をひらつかせた。

「…小原の言うサプライズなんて大抵ろくでもない記憶しかないが、今回は本当みたいだな」

ようやく目が合った慎は、ぽつりとそう呟いた。

「…え、慎ちゃん?ちょ…」

するりと手首を取られて、膝の上に強引に横座りさせられた。
驚愕して顔をあげると、すぐに唇を塞がれた。

「ん…!…っ!」

予告なしの深いキスに、体温が一気に上昇する。
いくらそういう仲でも、直人の心臓は未だに不意打ちに弱い。
慎の瞳がすっかりそっちモードになっている事に気づき、唖然とする。

「は…はぁ?ちょ…!」
「浴衣の襟ってエロいな…」

そう滑り込む手に、ようやくどういう状況か悟った。




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