おさななじみ

わーにんぐ!文化祭
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暑いじめりとしていた風が、だいぶ冷たいものに変化してきた9月。
直人は1人教室に座って背中を丸めていた。
一見華奢に見える肩は、微動だにしない。
その身体に、背後から長い腕が巻き付いた。

「な〜おちゃん!」
「わっ!」
「まぁたぼ〜っとしちゃってんの?襲われちゃうよ?」

振り向いたすぐ目の前に、綺麗な顔が現れた。

「小原君…!」
「何してたの」

貴文は、そのまま直人が必死にかじりついていたものを覗き込んできた。

「…3年2組喫茶?」


わーにんぐ!文化祭


その後は口に出さず、貴文はじっくりと用紙に記入されている内容を読み込んでいる。

「俺のクラスの企画、少し変更したんだ」
「……なおちゃん、これやるの」
「うん!いつも裏方だから、ちょっと嬉しくて…」

貴文はちょっと真剣な横顔で見入っていたが、直人に回していた腕を離した。

「…小原君?」

怪訝に思って振り返った途端、両肩に力強く手を置かれた。
見た目は中性的だが、やはり男子だと思わせる力だった。
にこりと貴文は笑みを浮かべた。

「やるじゃんなおちゃん!凄いね!ナイスポジション!」
「え…へへへ。そう?」
「で?これ、慎は知ってるの?」
「いや、この内容は急に決まったから、帰りに言おうと思って」

貴文はうんうん、とうなずいてから、

「準備とか大丈夫?貸そうか?」
「あ、うん、家にあるんだ」
「そっか…ふふ、楽しみ」
「え?」
「いやなんでもないよ」

周囲からは天使とも悪魔とも言われる貴文の容姿だが、こうして笑みを浮かべると2割増しだ。
ただこういう顔を見せる時は、よくない思考を巡らせている事も最近では気づいている。
困惑した視線を送っていると、貴文は思い直したように直人を見下ろした。

「慎ね、たぶん遅くなると思う。文化祭もあと1ヶ月きったじゃない?先生に頼まれまくりでさ」
「大変そうだよな、慎ちゃん…毎年だよね」
「本当、生徒会頼りな先生方の無能さには参るよ」

聞き間違いではないかというような毒を吐き、貴文は微笑む。

「だから、今日は先に帰ってた方いいかも」
「うん…そっか」
「俺が伝言してあげる。でも文化祭の事は、あとでちゃんとなおちゃんが言うんだよ?その時にはね…」

そう言って貴文は、直人を手招きしたのだった。





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