お題

甘い味
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「あ〜あ、外出んの寒い」
「…て、お前かなり着込んでんじゃん」
「夏休みが恋しい…」
「……1ヵ月以上たつんだけど」

放課後、2人の友人のぼやきを聞きながら、俺はひと口サイズ用のチョコを口に頬張った。

「彼女との恋も終わっちゃったし、俺今すげえ寒いんだけど」
「あぁ、海でナンパした子ね」
「夏の恋は短いっす。で、やっぱしこういう困った時は…アツシ様〜」

2人してすがるように俺を見。
確かに1年前は、夏休み中知り合った子をこいつらに紹介してやってた。
けれどあいにく今回は、ご希望にそえる事はできない。
休み中俺は、女の子と一切遊んでないから。

海には行った。
プール、水族館も。
…あと、図書館。
ただその相手は、全部あいつ…斉藤広希(サイトウヒロキ)だけど。
カナヅチだった斉藤は、俺の指導の甲斐あって今では25m泳げる。

努力家で、意外と負けず嫌い。
慣れると、子犬みたいな笑顔を見せる。
会う度に新しい一面を知った夏休みだった。

「アツシ君?」

…いかん、トリップしてしまった。

「……食う?」

期待に答えられない俺は、友人にチョコの箱を手渡した。

「なんだよアツシ〜。しかも入ってねぇし〜」
「あ、わりぃ」

俺が苦笑すると、少し不思議そうに2人が顔を見合わせる。

「…変わったよなぁ」
「え?」
「変わった!絶対」

口々に言われても、何が?どこが?
実感ないんだけど。

「食い物の好みまで違うもんなぁ。お前甘いの、てんで駄目だったじゃん」
「…だっけ?」
「そうだよ!滅多にないN女の合コンで、強引にパフェをあ〜ん!…て食わされたら、怒って帰ったの俺忘れてないかんね。しかも超かわいこちゃんに!」

そんな事もありましたっけ。

確かに、夏休み前までの俺は甘いもん全般が嫌いだった。
あの口に残る感じがいやだったんだっけ。
それが今じゃ、飴かチョコ常備。

…確かに変わったかも。

「こんなんじゃ、全然甘さが足りない」
「…お兄さん、トーニョー病になるよ」

だって、知らなかったから。
あんな甘い味。
飴よりもチョコよりも、甘くて癖になる。



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