お題

信じない
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「あ〜あちぃ」

がばりと俺の身体から離れ、男はそう言い放った。
俺は上体を少しだけ起こす。
腹部に今しがた奴が吐きだした液体を見下ろして、顔をしかめた。

「あんたさ…エアコンつける前にやる事あっだろうが」
「ん?」

裸でエアコンの近くのソファに腰掛け涼風にあたりながら、俺を振り返る。
いつもこの男…阿部純也(アベジュンヤ)はこんな感じだ。
セックスが終わると、仕事の合間の休憩と同じ顔で一服はじめる。
片手にはすでに、いつも愛用の俺のわからない外国の煙草。

「ヤりたい事はしつくしたはずだけど?」

純也は口元に煙草を持っていきながら、笑う。

「…エロオヤジ」

溜め息をつきながら、俺はベット脇にあるティッシュ箱を手だけ伸ばしてとった。

「言い方悪いなお前は…」
「当たってるだろ」
「色気のある大人の男と言ってくれ」

煙草を手に、純也がベットに戻ってくる。

「自過剰男」
「真実から来る自信だからいいんだよ」

長い指先が処理したばかりの俺の腹をなぞる。

「特にタクをイかす技術には自信ありだ」
「…変態ヤロー」
「お前なぁ」

純也が、そのまま俺の身体に乗っかって来た。
痩せてるとはいえ身長が180台の男の重さに、俺は眉を寄せる。
息苦しいし、この煙草の臭いが不快だ。

「仕事場の俺のモテっぷり知ってるだろ」

俺の反応にも構わず、純也が俺を見下ろしてきた。
大きな、くっきりした二重の瞳。
はっきりした、俺に言わせればクドイ顔。
居酒屋の店長をしてる純也は確かに客受けも、バイトの奴らからの受けもいい。

「知ってますよ阿部サン。この4年間で修羅場何回ありましたっけ」

俺はわざと、店で話す時の敬語で答えた。
しなやかな身体がたちまち退き、俺の横に寝そべった。
とぼけた顔で腹ばいのまま煙草をふかす。
…この態度がムカツク。


出会った頃からこの男はこうだ。
自信ありげで飄々として。
それでいて、うまいこと接近してくる。
4年前、俺がまだ初々しい17の時、バイトしていた居酒屋に新しく異動して来た店長が、純也だった。




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