お題


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「高村(タカムラ)…お前、絶対病気だって」

俺は向かいに座る高村の手首から、指を離した。
看護学校というものはまだまだ男が少なくて、実習のペアはいつもこいつとだ。
あまり表情がわからない、ぼ〜っとしたこいつ。
なんで看護師なんて目指したのか、俺には知るよしもない。
ちなみに俺はまぁ、よくある入院経験者だから、なんていうありきたりな理由。
それにしても脈104は早いだろ。
10代の若者だぜ、俺達。
高村は少し困ったような顔で笑う。
本人は驚いてないようだ。
こんな呑気で、他人ながら心配になる。

「塩分高いのとか摂りすぎてんじゃないのか?食生活大丈夫かよ」
「ああ。たぶん大丈夫」
「あとな、ストレスとかそういうのも関係すんだぞ。なんかないのか」
「…ストレス」

きょとん、としてから高村は俺をじっと見下ろした。
図体だけはでかいから、自然とそういう形になってしまう。

「ありがとう。心配してくれて」

素直にお礼を言われ、調子が狂う。
俺はなんとも言えない顔で高村を見つめた。
昔から時々、こんなふうに顔を出す俺のお節介癖。
…まぁ、看護師には向いてるかも。

「なぁに、男同士で手握り合っちゃって」
「やだ金安(カネヤス)、まさか高村とそういう関係?」

女子どもがいきなり俺達の近くに来てはやしたてる。

「脈測ってんだよばか。お前らも真面目にやれよ」
「え、もうみんな血圧やってるよ〜」

見回すと、確かに脈の測り合いは俺達だけで、みんな血圧測定している。

「いっつも金安が話しかけてるから遅いんじゃない?」
「は!?俺はナースとして真面目に…」
「ナースだって…!」

ぎゃははと笑われて俺は憮然とする。
こんなふうにいつも、女子の比率が圧倒的だと全く敵わない。
高村は相変わらず、ぼんやりと俺らを眺めてる。
頼むから応戦しろよな、もう。
内心毒づいて、俺は高村の手首を乱暴に離した。




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