お題

心音
1ページ/10ページ




「秋元、目黒。今日どうする?飲み行かねえの?」

大学の講義が終わるや、友人達が声をかけてきた。
帰り支度を済ませた目黒は、俺の側にたたずんでいた。
俺はちらりと目黒を見上げた。

「ん〜…どうする?」

頭1つ分高い位置にある整った顔は、じっと俺を見てから友人達に振り返る。

「今日はパス。秋元の家に寄るから」

そう言って、目黒は俺を見た。
俺は、誰にもわからないくらいの笑みを浮かべて暗黙の了解を示す。
少しでも、誘いの色に見えたらいいと意識して。
それが、秋元文哉(アキモトフミヤ)という、俺らしい態度だったから。


「秋…元……!もういい…」

上部から掠れた声があがる。
俺はあえて返事をしないで、行為を続けた。

一人暮らしのアパート。
あまり物を置かない為、つまらないと友人達に言われる俺の部屋。
今は、濡れた音が淫靡な空間に変えていた。

ベッドに腰かけた目黒のデニムの前は寛がれ、俺は膝まずいて性器に舌を這わせる。
既に形を変えたそれの、弱いところはもう知っていた。
見上げた先にある、快楽の時に見せる揺れる瞳も。
この半年間で知った、自分しか知らない目黒公明(メグロキミアキ)の顔。
友人という仮面を外した男の、欲情を浮かべた顔だった。


中学時代に自分の性的指向に気付いた俺は、既に何人もの男とセックス経験があった。
同級生とは違う疎外感と、その年頃特有の性欲、興味。
そういったものに突き動かされて、遊んだ。
高校を卒業する頃には、同族を見抜く能力を身につけると同時に、本気で愛されない質なのも自覚した。

見た目の肌の白さや甘いと言われる顔立ち、長身で細身な部分がそっち側の男には受けがよかった。
当たり障りない身体の関係なら、いい。
だけど、口説かれて付き合い、いざ好きになって入れ込んでしまう自分は、引かれてしまうみたいだ。

『付き合うと意外と重いよな』
『ちょっと違ってたわ』

いつも、こんな言葉で終焉を向かえた。
同性だろうが、冷たく振られたり浮気されるのは、毎回鈍い痛みと消えない傷をつける。
だから半ば諦めて、割りきりの相手だけを探し、入り込まないと決めていた。
そうして生きていくのも悪くない。
遊びの距離なら、誰からも傷つけられる事はない。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ