お題

凍結
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「返してくれない?」

部屋に入ってくるなり発した一臣(カズオミ)の一言に、数馬(カズマ)は振り返った。
にっこりと微笑んでいる、五つ年上の兄。
誰もが惹かれる美しい彼にある毒を、数馬だけは知っていた。
親の前でさえ優秀で、美しく優しい兄は…貪欲で冷淡だった。
幼いころから、たくさんのものを奪われて来た、数馬だけはそれを知っていた。
数馬は無言で動きを再開する。
せめてもの反抗をしたつもりだったが、バックを持つ手は震えていた。
俯いて一臣の隣をすり抜け、ドアノブに手をかける。

「返してもらうから」

もう一度背後で、一臣が言った。
数馬は逃げるように、部屋を飛び出した。


「数馬?」

呼ばれて、数馬ははっと顔をあげる。

「あ…ごめ…何?」

正面から覗き込まれ、自分が長い事上の空だった事に気付く。
喫茶店に入ってすぐ頼んだアイスティーは、数馬の分だけ減っていない。

「どうした?何か変じゃない?お前」

頬杖をついて自分を見つめる彼…花岡豊(ハナオカユタカ)こそ、先ほど兄に返して欲しいと言われた相手だった。
2年前までは、兄と同じ大学で、兄の恋人。
そして今は、自分の恋人。
遊び人風な整った外見は、一臣が家に連れて来た最初の頃は敬遠してた。
飽きっぽく、短期間で相手を変える兄と同じタイプだと、感じていた。

だけど…



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