短編

指先マジック
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「……っ……はぁ…」
「……」
「う〜……ン」
「………やめませんか、それ」

冷たい響きを含ませた言葉が降ってきて僕、若生朝斗(ワコウアサト)は目を開けた。


「え〜、だって気持ちイイんだもん」


そんな僕に上から呆れたような視線を送る男前な彼が僕の想い人、田村達己(タムラタツミ)サン。


「……じゃあ、トリートメント入りますね」

愛想なく言われても、僕は気にせずうっとりと目を閉じた。

…そう、ここはシャンプー台の上。

彼は美容師さんで、僕は悲しいかなただのお客さんてわけだ。

「あ……田村サン気持ちイイ〜」
「……」

諦めたのか何の返答もない。

……でも本当に田村さんの洗い方は絶妙なんだ。
頭皮から髪の毛先まで、包み込むように指が動く。
一年前、彼に初めて髪を洗ってもらってあまりの気持ちよさに衝撃を受けた。
生まれて初めて、女の人にさえあんな洗い方された事なかった。
まるで魔法をかけられたように、僕は彼の指先にまいっちゃったのだ。
それにはまって半月後また来て、今度は田村さん自身にはまってしまったわけだけど。

やたらテンション高い美容師さんと違って、田村さんは無口ですごく落ち着いてる。
僕より9も上の28歳と聞いてるから、それもあるんだろうけど。



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