短編

寂しい微笑
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六月、雨の降る静かな朝だった。

僕の父の弟にあたる叔父さんが、死んだ。


ここ2年、ずっと入院していた叔父さん。
真っ白な病室で、死に顔は眠っているように見えた。

「……あいつはよく頑張ったよ。」
「そうね…でもまさか忠人さんが白血病だなんて……若いのにね……」

厳格で強い父には珍しく気落ちした声と、涙混じりの母の声が聞こえる。
僕は暗くなっても静かに降り続ける雨を、部屋の片隅の窓から見ていた。
電灯の下見える雨の勢いは弱く、訪れる夜をよけいに静かに感じさせる。

雨が全ての音を吸い込んでいるみたいだ。

その静かな夜にふさわしく、お通夜はひっそりと行われた。
父と二人だけの兄弟で結婚もしていない叔父さんと、別れを交わしに来る人は少ない。
1人暮らしの叔父さんのマンションは、殺風景でとても広く感じた。
僕は時折訪れる人に挨拶をしたり、窓の外に立って父母の会話をじっと聞いていた。

飾られている写真は、いつ撮ったものだろう…
僕にとっては見慣れた笑顔。
微笑する叔父さんがいる。
病院でよく叔父さんがしていた。



…寂しい微笑。




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