短編
□海声
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海は広くて青くて。
太陽が眩しくて。
そこは、泳げない僕には未知な空間で。
だけど、素晴らしい景色。
海声
パラソルの下で絵を描いていた僕の筆を奪うと、あの人は言った。
『葵(アオイ)、少しでいいから潜ってみろよ。本当最高だから』
『や、やだよ。僕が泳げないの知ってるだろ』
『水中メガネ越しに目を開けてみろ。…5秒だけ』
『5秒だけ?』
『ああ、5秒だけ』
あの人は、微笑む。
渡された水中メガネをつけ、半分ヤケになって潜った。
1…白い波…2…波の音…3…小さい魚…4…海に散る砂…5…あの人の、僕の手を握ってくれる、あたたかい手……
ざばっ…
勢いよく顔を出すと、あの人が満足そうに笑う。
『やればできるじゃん』
ざざーざざー…
波の音まで、綺麗に描ける気がした。