短編
□共有愛
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「あたしを抱いて」
俺は、彼女の誘いに敗けた。
理性では必死に抗っても、ひっぱられて。
目をつぶりたくても、釘付けになって。
聞いたら最後、断る術がなかった。
彼女の甘く響く、呪文の言葉に。
共有愛
「凪(ナギ)、泣くなよ」
「ごめ…っ…功太(コウタ)…だけど俺不安なんだ…まぁちゃんの気持ちが」
同棲している正美(マサミ)が家出したと、凪は俺のアパートで涙を流す。
これでもう3回目だった。
「俺…まぁちゃんに誰かがいるの、知ってる」
ぽつりと凪は呟いた。
凪の大好きなオレンジジュースを注いでいた手を、止めた。
顔をあげると、悲しそうに凪は笑う。
必死に作り出した笑みだ。
「それでも俺…好きなんだ」
胸に走る痛みを隠すように小さく息をついて、そっと抱き締めた。
痛みの名前はわかってる。
罪悪感、だ。
「ああ、わかった…わかってるから…泣くなよ」
「功太……苦しいよ」
震える声で言って、必死にしがみついてくる。
海に放りだされて、溺れまいとするように。
「いいから…もう何にも考えるな」
そう言って俺は、凪の身体をゆっくり押し倒す。
あとから後からこぼれる涙で、凪の目には俺の姿はぼやけて映ってるだろう。
…それでいい。
平常な時の凪にだったら、悟られてしまうから。