短編

共有愛
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「あたしを抱いて」


俺は、彼女の誘いに敗けた。
理性では必死に抗っても、ひっぱられて。
目をつぶりたくても、釘付けになって。
聞いたら最後、断る術がなかった。
彼女の甘く響く、呪文の言葉に。


共有愛


「凪(ナギ)、泣くなよ」
「ごめ…っ…功太(コウタ)…だけど俺不安なんだ…まぁちゃんの気持ちが」

同棲している正美(マサミ)が家出したと、凪は俺のアパートで涙を流す。
これでもう3回目だった。

「俺…まぁちゃんに誰かがいるの、知ってる」

ぽつりと凪は呟いた。
凪の大好きなオレンジジュースを注いでいた手を、止めた。
顔をあげると、悲しそうに凪は笑う。
必死に作り出した笑みだ。

「それでも俺…好きなんだ」

胸に走る痛みを隠すように小さく息をついて、そっと抱き締めた。
痛みの名前はわかってる。

罪悪感、だ。

「ああ、わかった…わかってるから…泣くなよ」
「功太……苦しいよ」

震える声で言って、必死にしがみついてくる。
海に放りだされて、溺れまいとするように。

「いいから…もう何にも考えるな」

そう言って俺は、凪の身体をゆっくり押し倒す。
あとから後からこぼれる涙で、凪の目には俺の姿はぼやけて映ってるだろう。

…それでいい。

平常な時の凪にだったら、悟られてしまうから。



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