中編

brother days
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「この物件、いいですよ〜駅まで徒歩10分だし」


笑顔でそう進めて来る不動産のおじさんを尻目に、じっと物件の紙を眺めた。
家賃も安いし、部屋も広い。
窓が広くて、日当たりもよさそうだ。

…これなら、決めれそうだ。
一人暮らしをする為には充分だ。
俺は生まれてから20年間、住み慣れたあの家を出る。

彼から、離れないと行けないから。


brother days



仮契約にサインをして、書類が入った封筒を手に家へと急いだ。
あの不動産屋の話が長かったせいで、夕飯時間の7時を回ろうとしてる。
やや走り気味になるのは、我が家…清水家は、いまだに家族全員揃っての夕飯主義だからだ。
親父が率先してそのルールを守り続けてるもんだから、息子の俺も守らないわけにはいかない。


「ただいま」

駆け込むように玄関につくと、ぱたぱたという足音と共に、母さんが出迎えてくれた。
母さんは40になったとは思えない容貌を、にこやかにさせている。

「お帰り、オウ君」
「ああ、母さん。夕飯遅れてごめん」
「いいのいいの。今日はオウ君もナルも大好きなコロッケだから、早く食べましょ」

促されて食卓に顔を出した。
テーブルには既に料理、奥の席には親父が、手前の席にはナルが座っていて、やや離れた所にあるテレビを見ていた。

「おお、お帰り。珍しいな。オウが遅れるなんて」

親父が、テレビから俺に視線を向けた。

「ああ、ちょっと用あって」

そう答えながら席に座ると、隣のナルと目が合った。
そして…一瞬でそらされた。


清水(シミズ)家は四人暮らしだ。

俺、旺一郎(オウイチロウ)と、親父と母さん、そして弟のナル…成樹(ナルキ)。
家族だけど、途中から合わさった家族だ。
俺の親父と母さんは、お互い再婚夫婦だ。
つまり、ナルとは血のつながらない兄弟。




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