中編

愛しすぎて
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「もっと…動け」

乱れる事のない低い声は、自分を従わせる絶対的な威力を持つ。
浮かび上がる汗が頬を伝い、ぼんやりと目を開けた。
上質なソファに座る彼の上に跨り、忍(シノブ)は高ぶりをひたすら受け入れていた。
先ほど自ら昂らせられた健治(ケンジ)の熱いものは、深々と忍を貫いている。
身をよじっても、指先が冷たく背中を這って逃げられない。
闇に浮かぶ深い瞳は、じっと忍を見つめていた。
その静かとも思わせる色の奥に、獰猛な光を巧みに潜めて。

「けん…じ……も…もぅ……できな……ッ」

途切れ途切れにやっと出た言葉と、逃れる腰に、健治の瞳が細められた。
ああ、怒らせてしまった…そう思った時には強く引き寄せられていた。

「だったら…俺がヤってやる」
「あ…ゃあ……!!」

濡れた音のあがる速度が増した。
とうの昔に、自分の快感の部分は知られている。

「ぁあ…やぁ……!」

がっしりと腰を掴まれたまま、下からの強い突き上げを受けて忍は何度目かの絶頂を向かえた。



目覚めると、月明りに忍の体だけが、残されていた。
ソファにだらり、とたらされた腕に、力は入らない。
見慣れた広い部屋は暗く、二人の情事の気配さえ隠してしまう。
右の前腕部についた、新しい傷跡を撫でた。
健治の抱き方は強引で、傷や痣がつくのは珍しくない。


いつまで、続くのだろう。



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