中編
□星なき夜も
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『綺麗なお星さまのある日は、一緒にお空を見よう』
約束の言葉を、あんたは覚えてる?
あきらちゃんの、綿菓子みたいな笑顔が好き。
あきらちゃんの、木の葉が揺られるような笑い声が好き。
あきらちゃんの、お人形みたいな柔らかい髪が好き。
あきらちゃんの…
あの頃は、好きな人に好きと言えてた。
「またやられたんだ」
公園のブランコに座る章(アキラ)の口元の右端には、新しくできた引っ掻き傷。
俺はブランコの向かいにあるベンチに腰掛けて、それを眺めた。
「今日はね、真紀ちゃんがちょっと不安定だったんだ」
章は笑う。
6つ年上の章は、今年の春から小学校教師として働き始めた。
職員不足から、担任をもうもたされてるらしい。
そこは少し特別な環境の生徒が通う学校で、痣や傷を作ってくる毎日。
特に最近よく出て来る、真紀というガキ。
章がこんなだから、何しても許されると思ってるんだろう。
それでも章は、不満の1つも漏らさない。
「そんなガキ、厳しくぶったたけばいいんだよ」
「それじゃ駄目だよ」
「…腹立たないわけ」
睨むと、章は困ったように笑った。
…またそうやって笑う。
出会った頃からそうだ。
隣の家に住む、穏やかで優しい、6つ年上のおさななじみ。