おさななじみ
□おさななじみ
《エピローグ》
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「ほんっとなおちゃんには、あの日の慎を見せたかったよー」
きらきらと瞳を輝かせて言う貴文と、隣で苦虫を潰したような顔をしている慎。
どちらに同調していいのか分からず、直人は困ったように2人を見た。
今朝、目覚めて飛び起きた。
隣で眠る慎に、前夜の出来事が思い出されて1人どきまぎした。
けれど後から起きた慎は、あまりにも落ち着いていた。
促されて部屋に戻って着替えて。
登校時の慎は、やっぱりいつもと変わらない。
自分だけが妙に意識しながらも、互いの教室に別れた。
夢だったんじゃないかと疑いたくなる位、いつもの朝だった。
夢じゃないと実感させられたのが今、昼休みになってからだ。
授業後、飛んで来たかの如くの勢いで貴文がやってきた。
直人を見るなり、
「よかったね、やったね」
と、手を握る喜びようには困った。
いつもの貴文からは想像できない姿に、クラスメイトも衝撃を受けていた。
しばらく後に顔をのぞかせた慎は、自分より早くいる貴文を見て唖然とした。
その後は不機嫌になり、ほとんど口を開かない。
結局あまりの貴文の奇行ぶりに、こうして廊下に場所を移したのだ。
「なおちゃんが風邪で休んでた時も、絶頂に機嫌悪くて大変だったんだけどさ、何のアクションもなく過ごすから内心やきもきしちゃって。だから、つい電話しちゃったんだよね。ごめんねーなおちゃん」
「…電話?」
ぴくりと慎が反応するも、お構いなしに貴文は続ける。
「ま、結局は功を成したみたいで。あ〜それにしても俺、今までで初めて見たよ。慎のあんな姿」
思い出すように視線を遠くにやって、うっとりと笑う。
「…小原」
慎の眉間の皺が深くなった。
慎にとって昨日の事は、屈辱でしかないようだ。
壁に寄り掛かったまま、じろりと貴文を睨んでいる。
しかし貴文には通用しないらしく、話すのをやめる気配はない。
「壇上で論文すらすらと話す姿はまぁ、ムカツクぐらい完璧だったんだけどさ。終わって壇上から下りる時になったら慎ってば……!」
「小原、いい加減に…」
「階段じゃない場所普通に歩こうとしてさ。あれは絶対、2歩位は宙を歩いたよね」
「小原」
直人は目を丸くして聞き入ってしまう。
怪我のいきさつについては昨日の慎の反応もあり、事細かには聞けなかった。
こうして実際聞かされると、確かにいつもの慎からは結び付かない。