おさななじみ

おさななじみ《6》
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「37度4分かぁ…」

体温計を見上げ、直人は呟いた。
休んで2日目、久々にすっきりして目が覚めた。
大事をとって休むよう言い残して、母親も仕事に出かけた。
丁度お昼過ぎた時間で、程よく空腹感もでてきた。
連日、ほとんど水分と果物しか取っていないせいだ。
ベットから起き上がると、一瞬めまいがしたがすぐ落ち着く。
少しゆっくりな足取りで階下におり、冷蔵庫にあったヨーグルトを手に戻ってくる。
2日間、脱いで無造作にかけられた制服と投げっぱなしの鞄。
直人は周りを見回してから、存在を思い出したかのように鞄から携帯を取り出した。

「…切れてる」

やっぱり充電切れしていた。
ずっと放置していたのだから、当然だ。
まして直人の携帯は、機種交換を長い事していない為、充電切れが早いのだ。
充電機につないで電源を入れる。
愛のも含めて、数人からのお見舞いメール。
もちろん慎からは、何もない。
予想どおりだったのに、胸が痛んだ。
体育館前で見せた、他人のような慎の横顔。
画面をぼんやり見ながら、何度もあの光景が浮かんできた。
ふと、手にしていた携帯が鳴った。
直人は危うく落としかけつつも、着信表示を見た。

慎の名前が出ていた。

「嘘、なんで?」

動揺しながらも、着信を受ける。

「もしもし…」
『あ、なおちゃん?』

唐突に早口で語りかけられる。

「え…?」
『俺おれ、小原です』
「ど…したの?」
『今、慎は弁論の件でいないからさ。隙をついて携帯拝借してかけちゃった』

確かに貴文の声は、いつになく小声だった。
それにしても慎の携帯を勝手に使うなんて、やはり貴文は度胸がある。

『体調、どう?』
「あ…だいぶよくなった」
『そっか、よかった』

心から安心したような声。
それにしても、どうして貴文は自分に電話をかけてきたのだろう。
わざわざ慎の携帯を使ってまでなんて、純粋に心配してくれたのだろうか…?

「あの…」
『単刀直入に言うけどさ。俺、悪人覚悟でなおちゃんには慎の過去、正直に話したつもり』

本当に無駄のない、はっきりした言い方に、直人は返事につまった。
貴文は、現状をどこまで知っているんだろう。
疑問がよぎるが、どちらにせよ貴文ならすぐに勘づいただろう。

『ただこういう展開は誤算…だったかな。ごめん、ね』




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