おさななじみ

おさななじみ《5》
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夜中、何度も目が覚めた。

部屋に戻ると、すぐ横たわった。
そうするまでの動きは、もうはっきり覚えていない。
泣いて目の周りがヒリヒリして、だけどまた泣いて。
泣きやんだ少しの合間に、うとうとと眠り込む。
だけど、すぐに目覚めてしまって…を繰り返した。


『慎ちゃんはいいなぁ…頭よくて』

宿題をしに来ていた直人は、おもむろに呟いた。
あれは確か、中学生になったばかりの夏。
初めてのテスト結果は、慎がトップだった。
改めて慎の頭のよさを実感する。
突然言われて、慎は顔をあげた。
少し驚いた瞳。
この頃すでに、大人びた顔つきに変化してきていた気がする。

『…何か言った?』
『慎ちゃんどうしたの?ぼうっとして』

その日の慎は、学校が終わってから妙に上の空だった。

『何かあったの?』

そう聞くと、慎は一瞬直人を見つめてから小さく笑った。

『…まぁな』

細められた瞳は優しかった。

たわいない昔の光景が、短い夢にいくつも出て来た。
たわいもないけれど夢の中の慎はまだあどけなく、優しい目をしている。
何度目かの夢の後、鳥のさえずりに直人は目を開いた。
幸せな夢だったのか、目覚めた自分の顔は少し微笑んでいた。
けれどすぐ喪失感が襲って来て、直人はもう一度泣いた。



のろのろと準備をして、母親が作った朝食には手をつけられず、直人は玄関の前に座る。
洗面時、鏡に映った顔にさすがに驚いた。
目は充血してるし腫れぼったい。
目尻の赤みは冷やして引いたが、まだヒリヒリ感は残っている。
全身が怠くて、冬なのに身体がぼんやり熱をもっていた。
前夜の出来事は、間違いなく2人の関係に変化を与えてしまった。
支離滅裂に近い自分の発言を、慎はどう思っただろう。
自分はずるいよな、と思う。
同意で関係を持っておきながら、最終的には慎を責めた。
全てを、慎のせいにした。
自分だけ気持ちがある事が、他の人と比べられる事が悲しくて悔しくて。
自分の気持ちを制御できずに、思うままぶつけてしまった。
慎が好きだと自覚するまでは、平気な顔して行為にふけっていたのに今さら被害者ぶるなんて。
気怠い身体を起こして、立ち上がる。
時計は、慎といつも待ち合わせる時間を指していた。
ドアを開けると、どんよりとした冬の空が直人を向かえる。



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