おさななじみ

おさななじみ《4》
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「みなさんおはようございます」

いつものよく通る声が、体育館に響く。
朝礼中、生徒会からの報告だとかで美紗が壇上にあがっていた。
その背後には、慎が待機している。
直人は、いつものように壇上を見上げていた。
だけど思考はぼんやりとしていた。
最近の直人のそれは、明らかに考え事からくるものだ。
壇上の慎は、落ち着いた表情で美紗の言葉を聞いている。

「そういえば英語論文、いよいよ来週だね」

後ろからいつものように、愛が話しかけてくる。

「…だね」

視線を慎に向けたまま、直人が相槌を打った。
美紗と交替で話し始めた慎を、じっと見る。
人の前に立つのが当然のような、堂々さ。
見慣れた光景なのになんだか遠く感じた。
慎を拒んだ3日前、、気まずさを感じたのは自分だけで、2人の間には何の変化もない。
幼馴染みで、優等生で通っている慎。
これからも、こんな風に自分達は変わらないのだろうか。
2人の時には抱き合って、快感を追い求めて。
それも違う相手ができればいつかしなくなって。
そうしてまた、ただの幼馴染みに戻るのだろうか。
そんな事を考えていると、また胸のあたりに得体の知れないもやもやが出現する。

毎日こんな事ばかり考えての、繰り返し。

『わからないなら考えてみなよ』

いつかの貴文の言葉が、頭をよぎる。
考えないと駄目だって、本当はわかっている。
考えないようにしても、知らないふりをしても、いつかは追及しなくてはならない。
不可解なこの自分の気持ちを。
そしてこれだけは、今までのように慎に頼る事もできない…してはいけないのだ。


放課後、直人は慎をいつものように待っていた。
現状を変えなくてはいけない、わかっているのに変えられない。
それでも皮肉な事に、変えるつもりがない部分が変わってきてはいた。

「悪いな、待たせて」

直人の教室に慎が入ってくる。
最近、論文や委員会で遅くなる事が多いのだが今日は珍しく早い。

「全然待ってないよ」

そう笑い返すも、合わせた目は自然にすぐそらしてしまう。
変わってしまってる…変えてしまう部分。
それは、自分の慎に対する態度だった。
慎を拒んだ日から、どうしても不自然になる。
長く目を合わせられない、会話が続けられない…今こうして歩く帰り道さえ、隣にいるのが落ち着かない。
今までは当たり前だった、慎の隣にいるのに。

「……聞いてるのか?」



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