おさななじみ

おさななじみ《3》
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「……おそい」

直人の姿が見えるなり、家の前で待機していた慎は歩き出した。

「ごめん!寝坊した!」

慌てて慎の後を追いながら、直人は直しきれなかった寝癖を押さえる。
目を覚ましたら、毎朝慎と待ち合わせ時間の5分前で飛び起きた。
とにかく歯磨きと洗顔と着替えのみで、家を出たのだ。
毎朝寝坊とは無縁の完璧ぶりな慎と並ぶと、自分の姿から寝坊は一目瞭然な気がした。
身なりを気にする直人を、慎はさっそうと歩きながら振り返る。

「昨日は寝不足になるような事してないだろ?」

なんでもない事のように、さらりと言ってのける。
とたんに直人は頬を赤らめつつも、慎を睨みつけた。

「…そうだけど。いろいろ考え事あったから」
「考え事?」

慎が立ち止まる。

「なんだ、考え事って」

さらに歩を進めて、直人に近付く。
思いのほか追及の色が強い慎の瞳に、直人は後ずさった。

「……別に」

後退りしても、慎は素早く距離を縮めさせないよう近寄ってきた。
曲がり角前の塀に、背中がつく。
見透かすような、そらせない視線。
昔からいつも捕らえられると、逃げられない。
最近では、その威力がさらに強まった気がする。
もしくは、強い効果を感じる自分が変わったのか。
日常でも、二人でいるあの時間でも。
至近距離で見下ろされ、心臓の音がどんどん早まっていくのがわかる。
このままだと無意識に何かを言ってしまいそうな感覚に、直人は強く唇を噛む。

「…もう行かないと」

慌てて目を伏せて、慎の横をすり抜ける。

聞けるわけなかった。

最近ずっと、自分の頭にある疑問。
それは、日に日に大きくなる。
慎と身体を重ねれば重ねるほど、頭をよぎる。
なのに自分自身で解く事も、回答を持ってる相手に聞く事もできずにいた。
しばらくして、何事もなかったように慎が隣に並ぶ。
追及の続きの言葉はなかった。
2人とも、あとは無言で歩き続けた。
いつもなら沈黙も苦にならないのに、違う空気が漂っている気がした。
直人は何も考えないように、ひたすら学校までの道のりを急いだ。




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