おさななじみ

おさななじみ《1》
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『なおのちぃび。おんなおとこ!』

くりっとした瞳に、小さい身体。
ふわふわの、茶色い長めの髪。
確かに直人は、小さくて女の子みたいだった。
小学校に入学して1週間、同じクラスのよしお君は、直人よりひと回り大きな体格をしていた。

何をするにもゆっくりな直人は、ひどい言葉を投げつけられてもぼんやり砂場に立つだけだった。
よしお君は直人をターゲットと決めたらしく、毎日のようにからかいの言葉をあびせてくる。
スコップを握ったまま、突然の攻撃に反応できずにたたずんでいると、よしお君は第2の攻撃をしかけてきた。

『うわ、なんだこれ』

砂場に掘った穴に集めた、桜の花びらを覗きこむ。
桜の木が多い校庭は、この時期地面を綺麗な花びらで染めていた。
あまりにも綺麗に感じて、直人は花びらを広い、砂場の穴に集めて遊んでいたのだ。

『おんなみてぇ。気持ちわり〜』

そう言いながら、乱暴に穴に砂を蹴り入れる。

『……あ!やめて…やめてよ…!』

彼の足が踏み付けるたびに無残に砂と共に舞う花びらを見て、初めて直人の身体が動いた。
自分の倍もある身体に、ぶつかるようにして行為を止めようとした。

『うわ、なんだよ!』


急な反撃と直人が持ったままだったスコップに驚いて、よしお君は思い切り直人を突き飛ばした。

『……!』

砂場にうつぶせの格好で叩き付けられた時、額に鋭い痛みがが走った。

『…う…』
『おまえがわるいんだぞ。おまえが……あ…!』

ゆっくり起き上がる直人の額を見て、よしお君の表情が青ざめる。
スコップの刃先がかすめたらしく、直人の額の右側に傷ができていた。
傷から流れる、赤い血。
それにも気付かず、直人は踏み付けられた花びらをかき集めた。

『う……』

無惨に形を変えた花びらがひどく悲しくて、直人の視界が涙で一気に曇る。

『なおくん?授業始まっちゃうよ。なにやってんだよ…』

背後から、聞き慣れた声がした。
振り返ると、校庭から早足でこっちに向かってくる慎の姿が曇った視界に見える。
近付いてきた慎は、座り込んだ直人の額と表情を見て、近くに立っていたよしお君を見た。

『……おまえがやったの?』


慎の質問によしお君が返したのは、言葉ではなく校庭に大きく響き渡る泣き声だった。




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