おさななじみ

おさななじみ
《プロローグ》

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「うぁ〜!駄目駄目……!」

ある1室の中、直人の声が響く。
同じ年齢でありながら、全く違う体格の背中2つは、並んでTVの前にいた。
右側で前のめりになって、必死にコントローラーを動かしている、小柄で華奢な背中の持ち主が、三枝直人(サエグサナオト)。
その必死さは、背中からも伺える。

「…もう諦めろ。」

そんな直人とは体格同様、正反対に冷静な声と落ち着いた物腰をしているのが、新田慎(ニッタシン)である。

「終わりだ」

そのひと言と同時に、TV画面の右側にいる格闘キャラは思い切り吹き飛ばされ……倒れた。

「……っ!」

声にならない声をあげて、直人もゲームの格闘キャラ同様、そのまま後ろへ倒れこんだ。

「慎ちゃん…強すぎ…!」

幾度も挑戦して2時間に及んだ格闘ゲームは、直人の惨敗で幕を閉じた。
しかも慎側にほとんどダメージがないという、大がつく惨敗ぶり。

「お前が弱すぎるんだろう。時間の無駄だったな」

どこか見下すような口調は、初対面かつ繊細なタイプな人間なら、それだけで砕け落ちてしまいそうだ。
が、10年以上の付き合いである直人には全く効き目がないらしく、へらりと笑い返す。

「慎ちゃんの貴重な時間を有り難うゴザイマス」

直人は、寝そべったまま目をこすると大きく欠伸をひとつした。
さすがに、2時間夢中でTVゲームをやっていたからか目が疲労感で重い。

「…寝るなよ」

ゲームを片付けながら慎は、寝そべったままの直人を横目で見下ろす。

「うん…でも慎ちゃんちのラグって布団なみに柔らかいからさぁ」

幼い頃から、いつ来ても慎の家の床に敷かれたものは上等で柔らかい。

「寝たらそのまま、隣のお前の部屋に放りなげるからな」

実際されかかった事があるから、慎の発言は怖い。
隣り関係である直人の部屋は、慎の部屋のベランダと向かい合わせになっていて、行き来できるほど近いのだ。
今日もそうやって、慎にゲームの勝負を挑みに来たわけだが。
ゲームをさっさと片付けて立ち上がる慎を、直人はこすって赤くなった目だけで追いかける。




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