おさななじみ

三日間
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「今回も、去年同様に期待してるぞ」
「…はい」
「新田ほど英語力があれば、海外での仕事も夢じゃないな。いや〜将来が楽しみだ」

とんとん、と教師は机を鳴らしながら言う。
少なくとも、この英語教師よりは英語力は長けてるつもりだ。
だからこそよけい、嬉しくない。
早く解放してもらいたい。
内心そう思いながら、今日の英語論文についての話が終わる。
朝から呼び出しといて、話の要点さえまとまってないんだから困る。


職員室の帰り際、廊下を歩く時に自然と目をやる教室。

直人は、今日も休みだ。

『相変わらずなおは身体弱くて。この時期は特になのよ〜』

直人にそっくりな大きな目に困った色を浮かべて、おばさんは言っていた。
直人が休んでもう、2日になる。
直人が早退した日から目を合わせず口をきかず、会わないままの、3日間。
ここまで直人の事を知らない日々は、17年間初めてだった。
風邪をひいたら、すぐに行ける距離。
いじめられて怪我をしていても、悩んでても、泣いてても。 いつでも飛んでいけた。
1番近くにいた。
そう自負できる。
けれど今の俺はあいつから一番遠い…かもしれない。


『もう…いやだ』

そこまで、俺に抱かれたくなかった?


『なんで…俺なの?』

そんなの、理由なんて1つしかないだろう。
ずっと前から…1つしかない。


はやまった、というのが真っ先に思った事だった。
直人を、初めて抱いた日に。
あいつの無防備さを前に自分の欲情を抑えるなんて、慣れていたはずだった。
うたた寝する姿に引き寄せられるようにキスをして、なすがまま受け入れられたら止まらなくなって。
今考えると実は限界だったんだな、と思う。
自分が思ってた以上に、理性は脆くなってたんだ。

第1、あの状況で幼馴染みだから、なんて理由で抵抗を見せなかった直人にも、落ち度はある。

だから反省点はいくつかあっても、後悔はない。
遅かれ早かれああしてた。


人生目標があるとしたら、ひとつだけ。

地位とか金とか女とか。
どうでもいい。
ただ直人と歩いていけたらいい。
初めて自覚した時も、同性だからという事は全く気持ちの妨げにならなかった。
自分勝手と言われようが、諦めるつもりはなかった。
出会って、はじめて俺に笑顔を向けた時に、何かが定まってしまったのだ。
俺も、あいつも。
だから後悔は……


頬を滑る涙。



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