お題

信じない
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翌日、悶々とした気持ちのまま昼前に起きた。
熱さで起こされた感じだ。
夏ってのは、日曜日でさえ俺を気持ち良くは寝かせてくれない。
する事が浮かばなくて、休日はなんだかんだで純也と過ごしてたのだと実感する。
1人でいると身体を持て余す。
俺は仕方なく本屋でも行く事にした。
家にじっとしているよりは、考えないだろうから。


外にでて、5分位歩いて後悔した。
うんざりする位暑い。
本屋まであと10分はかかる。
通り道にある喫茶店を横切りつつ、涼んでる客を思わずうらやましげに見てしまう。
…と、見慣れた顔が喫茶店にあり、俺は足を止めた。

窓際よりひとつ奥のテーブル。

俺の目は自然とズームインされて、1人の男を映した。
横顔は、間違いなく純也だった。
その向かいには、少年が座っていた。
俺よりは間違いなく年下だろう。
純也が何か言い、少年に笑いかける。
俺が見た事ない、優しい笑顔だった。
少年も微笑み、頷く。
そこまでで気付くと俺の思考は止まり、身体だけ勝手に動いていた。
店内に入ると、店員も無視してずんずんと1点を目指す。
テーブルの前に立つと、少年の方が先に顔をあげ、続いて純也も俺を見上げた。
それから、少し驚いた表情に変わる。

「こんにちは」

俺は静かに言った。

「タク…?なんでここに…」
「東京行くんだって?」

前置きもなく、俺は切り出した。
少年が戸惑った気配をしたのを感じつつ、俺は純也だけを見下ろしていた。

「聞いたのか…」

少し困ったような、それでいて余裕のある笑み。
…やっぱり、それだけか。

「わかった。…サヨナラ。お元気で」

俺はそう言って踵を返した。

「おいタク…?」

背後でした声を振り切るように、店を出てからは無我夢中で駆け出した。
本屋も通りこして、目的もなく走った。


ようやく足を止めて、目についた公園のベンチに腰掛ける。
良く知らない公園だった。
ただでさえ暑いのに、走ったせいでTシャツまで汗だくだ。
あえぐように呼吸して、落ち着くのを待つ。

なんて馬鹿馬鹿しい終わり方だ。



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