お題

信じない
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「ま、俺もそろそろバイト人は潮時だし。増やしてもらえると助かるけど」
「……やめるのか」
「俺、来年大学卒業だよ?もういい年…て聞いてんのか」

いつの間にか煙草を置いて、俺の太股をなでてくる。

「聞いてるよ。タクの出勤日は決まって周りもひき締まる…知ってたか?」

見上げて来る大きな瞳が、少し細められる。
この目は反則だ…別の生き物みたいに指先は俺の下半身に侵入してきてるのに。

「だから、タクがいないと困る」
「どうだか…ん…よせ…っ」

甘い低い声と巧みな指の動きに、身体の熱さが再開する気配。
こいつのずるい方法に、決まって俺は流される。
俺がバイト辞めて、俺達はどうなるのか…約束の言葉なんて、端から期待してない。
そもそも、4年続いてるのが不思議だ。

「ぁ…駄目…だ……!」

首筋に這わされる舌にのけ反りながら、奴の思惑どうり俺は思考を閉ざした。


「…俺午後から講義なんだけど」

持ち込まれた2戦目を終え、ぐったり横たわりながら俺は呟いた。

「よかったな、眠気覚しになって」

まるでデジャヴのように、純也はエアコンに涼みながらうまそうに煙草をふかす。
…なんて最低な男。

俺は入浴を早々と済ませると、衣類を身につけた。

「あ、今日俺休みだから」
「俺はシフト入ってんだよ」

休みだから今日も来いと言わんばかりな純也に、冷たく言い捨ててやる。

「そか…んじゃ、ほれ」

玄関にむかう俺の後をシャツとハーフパンツ姿でついてきて、ビニール袋を渡す。

「何これ」
「見たがってたやつの録画。動物記なんとか」
「あぁ。…ありがと」

思わぬ手土産につい顔がほころぶ。
俺はこの性格に似合わず、この手の動物番組に弱い。
バイトが入って見れなかったやつを、録ってくれてたようだ。
こういうとこに気が利くあたりも、こいつがモテる理由なのかもしれない。

「じゃ…行くわ」
「ん。それみて泣きすぎるなよ」

振り向くとにやにやと笑っている。
俺がこの手の番組で感動して泣いてしまうのも、知られている。
俺は悔しさにひと睨みして、部屋を後にした。




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