短編3

□せめて答えだけでも
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私は断じて暗い性格なのではなく、はたまた空気的存在でもない。敢えていうならばそれは大人しくて何事にも控えめなだけなのだと思う。無表情が何だ、無愛想が何だ。私とて人間。人並みに怒ったり哀しかったり、そしてまた恋もする。とか何とか無駄にいろいろと考えていると、いつの間にか身体が冷えて参った。やはり甲板に長いするのはこの時期は避けたい。


「ここにいたのか」

「!?」


何か低い声が背後から聞こえたので振り返ってみればそこにはなんと、河上万斉という私の想い人がいた。恥ずかしい話、この目の前の人が初恋の相手だったりなかったり。陰で動く市松人形と言われようが喋るマネキンと言われようが耐えてこれたのも彼あってのこと。こんな私に気軽に話しかけてくるのも彼だけだ。


「あまり長居すると身体が冷えるでござるよ」

「そうでござるか」

「何で真似?」

「…」


河上さんには悪いが今ちょっとそれどころではない。恋をすると、こんなにも自分の心臓に異常をきたしたりするものなのか。手先が震え出すものなのか。そういえばこの間、鬼兵隊の総督から何やらお節介なことを言われた気がしないでもない。何でも見透かしたようなあのお方は、当然私の気持ちも知っていた上で言わねぇのか、と聞いてきたわけだが、いや本当にお節介にも程がある。とどのつまり、告白しないのかということだ。考えたら腹が立つが一応総督というお偉い立場にあるので黙っておくとする。しかしそれにしても、もしかして今のこの状況は俗にいうチャンスなのでは?辺りを見回しても、いつもはいる猪女も変態策謀家も今はいない。あれれ二人だけ?


「どうした?」

「いや、何でもござらん」

「…もう真似っこは良いでござるよ」

「!」


どうやら彼は私を殺す気らしい。頼む、笑わないでくれ。私の心臓がぎゅーっとなってぱーんって破裂するから。嗚呼もう、これっていっそのこと本人に言ってしまった方が良いのでは?今のところぎゅーってなってる心臓がぱーんってなる前に言ってしまった方が‥


「か、河上さん!」

「ん?」

「本日は良い天気で過ごし易い一日になりそ―」

「もう夜でござるよ」

「…」

「それに今日は一日曇りにござったが…」

「…」


いかんいかん、空回りしてるぞ自分。頑張れ自分。さらっと言ってしまえばそれで済むから。よし行けさぁ行け、好きだと言え自分。


「あのですね河上さん」

「ん?」

「…す、」

「す?」

「す…すっとこどっこいな武市さんはどこへ?」

「…?武市殿ならば今日は見ていないが…」

「あーそうですか」

「…」


何やってるんだろう。情けないな。きっと河上さんの目には無表情で可笑しなことを言う、動く市松人形とでも映ってるんだろう。考えたら気持ち悪いこと山の如しだ。


「今日の主はよく喋る」

「え…」

「とても良い事にござる」

「!かっ河上さん」


私は会話の途中にも関わらず、ようやく決心がついたよう。自分でもよくわからないけれど。彼に一歩近付いて、そして深呼吸。よし次は口を開くだけ。


「河上さんのことが…す、好きなんですけど」

「!」


言った。よくぞ言った。これでもう誰も変な陰口は叩くまい。いや別の意味で叩かれそうだけれど。私がついに告白をした。一方の河上さんはポカンと口を開けたまま、真っ直ぐこちらを見ている。あれ、そんなに驚かなくても‥


「あの――」

「よかった!」

「!?」


彼はいきなり声を上げて私の肩を掴む。内心びっくりして悲鳴をあげたいところだが、やはり表に出す顔は無に近いらしい。というより、何がよかったのだろうか。変に期待してしまって良いのだろうか。


「よかった…」

「な、何が…?」

「いや、主にもそういう感情があったかと思うと…実は拙者、前々から心配しており申した」

「…」

「人を好きと思う気持ちは決して悪くはござらん。とても良いことだ」

「…はぁ」

「安心したでござる。では拙者はこれから用事があるので失礼致す…」

「…はぁ」


あれ、何かおかしくはないだろうか。私は河上さんに告白したはずなのに。当人はまるでそのことについては無視か。鼻唄なんか歌ってご機嫌に去っていくけれど、私は一体どうしたら良いと?


「…はぁ」


途方に暮れる私とは正反対に、河上さんのいよいよノリにノった鼻唄がやけに甲板に響いていた。







せめて答えだけでも
(私に導いてくれないか)





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最近どうにも万斉さんのサングラスの奥が「3」であって欲しいと願わずにはいられない。

H20/5/15(木)ツブテ

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