短編4

□隣人を愛しなさい
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「…ふふふ」

これが不敵な笑みだと思ったら大間違いだ。これは人が追い詰められたときに繰り出される諦めがかった笑いだと主張したい。やはり世の中二度あることは三度あるようで、今、私はその三度目の危機に直面していたりするわけだ。いやそれにしても些か度が過ぎるよコレ。まだ折り返し地点にも届いてないけどこれだけはわかる。私は人生最大のピンチに出くわしたと。そう、紙がないんだよ。大事な後始末をするための紙がね、ないんだよ。どうしたらいいコレ?ちょっと表現するのもアレだけど、急に催すものがあってトイレに駆け込んだはいいけど生憎の満室で、我慢すると大変なことになるって友達が物凄い形相で話してくれたのを朧げに記憶したっけ。きっと生死をさ迷ったに違いない。そんな訳で、考えるより先に足が男子用トイレに向かったわけだ。で、全て解決したかと思いきや紙がなかったわけだ。で、今に至るわけだ。

「…ふふふ。このピンチを乗り切らないと明日は来ない…でも紙がない…やっぱり明日は来ない…」

「おーいお姉さん」

「!」

「そう悲観的になったら駄目だよ〜困ったときはお隣りさんに頼ってみ」

「…誰ですかあんた」

いきなり話し掛けてきたかと思えば馴れ馴れしいなこの人。てゆーか隣に入ってたのか全然気付かなかったよ。私がここに来た時はぜんぶ空室だったのにね。

「てゆーか何で驚かないんだよ。普通男子トイレに女が入ってたらびっくりするでしょ引くでしょ」

「いや〜なんていうか、お姉さんの心の声が全部漏れててね。驚くより先に同情しちゃったよ、銀さん」

「あ、そうですか。そりゃどうも、銀次郎さん」

「ちょ、銀次郎て何!?銀時だから!俺の名前は銀時だから銀さんね!覚えとけよコノヤロー」

「あーはいはい。すんませんけど銀さん、私に紙を分けてくれませんかね」

「あーはいはい。紙ね。困った時はお互い様だよね。ちょっと待ってろよ」

「…」

そうやって銀次郎…違った銀時とかいう人はがさがさと何か音を立てていったん黙り込む。ちょっと辺りが静かになった。多分トイレットペーパー略してトイペを用意してくれてるんだろうけど、それにしてもちょっと時間かかり過ぎじゃありませんか銀さんとやら。パコッて外してポイッて上から投げてくれればいい話なんだけど。早く紙を分けてほしいんだけど。

「あのーすみませ…」

「そういえばさー紙がないといえば俺の財布の中も紙不足でよォ。今二千円しかないんだわ〜どうしたらいいと思う、お姉さん」

「え…いやそれよりもこっちの紙を――」

「新八が言うには…あ、新八ってのはウチで働くツッコミ担当の主婦まがいな奴のことな。俺いちおう万事屋やってるから。んで新八がさー今日は卵が安いから絶対買ってこいって言うわけよ。そしたら何か便乗して神楽が酢昆布も欲しいとか脅してきやがってよォ…俺としてはいちご牛乳一週間分を今日のうちに買いたいんだよなー参ったな〜足りるかな二千円で。なァお姉さんどう思…」

「知るかァァァァ!」

「え、なに怒ってんだよ落ち着けって」

「そっちの紙の話はどうでもいいからこっちの紙を何とかしろっての!」

「あ、そうだったそうだった。悪いねすっかり話それちゃったよ。でもそんな苛々したら駄目だよ〜カルシウム足りてる?」

「…」

誰のせいだと思ってんだこの銀次郎が。アレ、銀次郎だっけ。ああもうどっちでもいいよ早く紙ください。

「おし、じゃあ銀さんが今から紙あげちゃうよ。上にあげちゃうよ」

「つまんないって」

やっと投げられたトイペ。それを難無く受け取って、ようやく私はここから出れるってわけだ。いや本当に助かった銀之介さん。アレ銀之介だっけ。まぁどっちでもいいか。さっさと男子トイレからおさらばして我が家に帰ろう。

「あ、知ってる?トイペは一回につき三十センチまでらしいぜ」

「は?」

「いや〜今エコ週間らしくてね。そういうの守っていこうよ、みたいなモンがあるらしいよ」

「あーそうですか」

全て解決した私は残りのトイペをまた上から投げて銀太郎さんに返す。水を流して忌ま忌ましい記憶も流して、いざ帰るべし――と思ってドア開けたら目の前には銀さんと思しき男の人。

「…よぉ、無事に尻は拭けたのかお姉さん」

「レディに向かって何てこと言うんだよ」

「あ、悪い悪い。ここ男子トイレだからわかんなかったわ〜いや悪いね」

「…」

性格通りの腹立つ顔してやがる。仕方ないじゃない女子トイレ空いてなかったんだからさ。生死をさ迷いたくなかったんだよ友達の二の舞にはなりたくなかったんだよ。そんなありったけの想いを睨みに代えて見据えてやると、銀太さんは眩しい銀髪をがしがしと乱暴に掻きむしる。

「あーアレだ。お姉さん、カルシウム足りないみてぇだからアレだ。銀さんが美味しいパフェが食べれるところに連れてってやってもいいけど…どうするよ?」

「…」

何でカルシウム足りないと思われてるんだろう。何で苛々の原因が自分だって気がつかないんだろう。何でカルシウム摂取がパフェになるんだろう。ただ単に自分が糖分摂取したいだけじゃないのこの人?でも何か知らないけど決して嫌じゃないから断ることはしなかった。

「…ふふん。仕方ないから行ってやっても良いよ」

「よーし、んじゃ行くかトイペ女」

「その呼び方やめてェェェ!」







隣人を愛しなさい
(トイペは世界を救うから)






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ギャグ…ってギャグになりきれてない気がしますが。とりあえずツブテ史上初の5分で書き上げるという快挙を成し遂げましたヤッホゥ。ちなみにトイペがないというのは、ついさっきツブテが経験しました。でもご安心ください、男子トイレには入ってません。

H20/6/20(金)ツブテ

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