銀魂

□猫と綿菓子
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不機嫌そうに尻尾を振る姿も

特定の人にしか懐かないのも

すべてあの人を思い浮かべる為の引金でしか無いのかもしれない。

ねえ、神様。

願わくば、もう一度あの人に逢わせてあげて下さい。

ねえ・・・神様。


―猫と綿菓子―

五日前、土方さんが行方不明になったと、沖田さんが告げに来た。
攘夷浪士の襲撃に遭い、生死すら定かでないと。
それを聞いた銀さんは、真っ青な顔になって、沖田さんに詰め寄っていた。
そんなわけないだろ、と。

―銀さんと土方さんが恋仲だって言うのは、結構前から周知の事だった。
僕はもとより、沖田さんなんか真っ先に気付いて言い触らしてたからだ。
その度に二人して「そんなんじゃねーよ」って真っ赤になって怒って、笑って。
だから、銀さんが動揺するのは当たり前だと思った。

それから今日まで、銀さんは抜け殻みたいになっている。
話しかけても上の空で、お客さんが来ても顔すら見ていない。
「銀さん、ほらお客さん怒ってますよ。」
そう言って突いても、生返事を返すだけで一向に意識が戻ってこない。
一体何処を見ているのやら、視線は常に一定しない。
結局今日も、お客さんの対応は僕がした。

半ば鬱になりかけている銀さんを一人にはして置けなくて、普段から必ず僕か神楽ちゃんが付いている。
仕事も、食事も、寝るときですら近くに居る。
それだけ近くに居て初めて気付いた。

銀さんが、夜になって独りで布団に包まって、小さく泣き声を上げていた事に。

「ただいまネ!」
「ただいまー。」
明るい元気な声と、のんびりと間延びした声が玄関から響いた。
「おかえりなさい二人とも。おやつあるから、手洗っておいで!」
皿におやつの菓子を載せお茶を淹れながら、何時も通り声を掛けた。
「新八、そんなのは後でいいネ!早くこっち来るアル!」
何時もならばすっ飛んでくる神楽ちゃんが、珍しくそんな事を言い出した。
首を傾げつつ、玄関へ向かう。
「新八、見てヨ!真っ黒な猫ネ!」
嬉しそうに笑う神楽ちゃんが指差す方向を辿っていけば、銀さんの腕の中に真っ黒な猫が居た。
「・・・猫?」
「おう。拾ったんだ、可愛いだろ?」
ふわりと微笑む銀さんの笑顔に、胸が疼いた。
「そう・・・そうですね、可愛いです。で、飼うんですか?」
言いながら銀さんの腕の中大人しく眠る黒猫の額を撫でようと手を伸ばした。
「あ。新八、やめた方が・・・。」
銀さんが忠告し終える前に、その猫はいきなり目を見開いたかと思うと僕の手を思いっきり引っ掻いていた。
「ちょッ・・・痛いッ痛いって!!」
しかも引っ掻いただけでは気がすまなかったらしく、爪を立てたまま人の手を齧っていたりする。
「あーこら、止めろって。新八嫌がってるだろ。」
銀さんがやけに優しい声で言いながら、猫の手をちょいと摘む。
すると今まで毛を逆立てて爪を立てていたのが嘘みたいに大人しくなって、腕の中でまた目を閉じてしまった。
「・・・飼うんですか?」
非常に厭な予感がしてもう一度聞くと、予想以上の笑顔で銀さんは頷いた。

「当たり前だろ。」

僕は目の前が真っ暗になっていくのを感じていた。


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