銀魂

□連:また何時か出逢える日まで
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ある日、夢を見た。

その夢は
どこまでも暗く
冷たい闇の中に

一人

取り残される夢―・・・


†また何時か出逢える日まで†

「起きろ総悟。」
心地よい声に眼を開けると、そこには見慣れた顔があった。
煙草を銜え、不機嫌そうに眉間に皴を寄せている顔。
新選組副長、土方十四郎である。
「お前な、仕事中に寝るなって何度も言ってるだろうが!!」
一瞬だけホッとしたような表情を浮かべたがすぐにいつもの顔に戻り、
至極真っ当な事を全力で怒鳴りつけた。
真黒な髪の隙間から、光が差し込んでいる。
その光に眼を細め、総悟はため息を吐いた。
「そんなにでけぇ声で言わなくても聞こえてまさァ。」
大欠伸をして起き上った総悟に、土方は呆れたように文句を言い、
「んなとこで寝てねぇで市中見回り、行ってこい。」
とだけ残してその場を立ち去った。
「そんな面倒くせぇ事、やってらんねーや。」
もう一度欠伸をしながら呟いて、総悟は愛刀を持ってフラフラとどこかへ出かけて行った。


町は相変わらず喧騒に包まれていた。
あちらこちらで、個人商店からの呼び声が掛かる。
「今日は特売日だよー!」
「奥さん、旬の野菜が入ったよ!」
「新商品本日発売!ぜひお試しを!」
どれもこれも、総悟には意味を成さない言葉ばかりだった。
興味も沸かない。
威勢の良い声も、全て耳障りな雑音に成り下がる。
ぶらぶらと、目的も無く町を彷徨う。
楽しそうに話しながら歩いている学生や、陰鬱そうな顔で俯いている会社員。
総悟には、その全てが異世界のことのようにどうでもよかった。
「あー・・・ヒマだぜィ。」
ぼそりと呟きながら、目的を見出せずとりあえず歩く。
ふと、見慣れた姿が目に入った。
銀色の髪は好き放題に跳ね、統一感が皆無である。
相も変わらず、だらけた格好をしている。
「・・・・・・・・・。」
どうやら、総悟には気付いていない様だ。
少しからかってやろうかと、静かに背後に近付く。
そしていきなり
「万事屋の旦那じゃねェですかィ。」
と声を掛けた。
「んぁ・・・?」
吃驚するだろう、と予想していたのだが、全く外れた。
男・・・銀時は、矢鱈と緩慢な動作で振り返った。
「ああ、えっと・・・あ、沖田君だったっけか。」
いつも通りの、やる気の無い目で総悟の顔を眺め、そんな事を言っている。
この男は、本当に思い出せないのだかボケているだけなのか、全く分からない。
「・・・で。何だ、いきなり?」
いかにも面倒そうに頭を掻きながら、これまた面倒そうに問われる。
総悟は少し言葉に悩んでから、「いや、別に。」と答えた。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・はァ?」
銀時が素っ頓狂な声を上げた。
まあ、その反応は分からないでもない。
「なに、じゃあ意味も無く声掛けたわけ?
本当に、何も?!何だよそれ、俺の時間を返せ!!」
あー腹立つーと叫びながら、頭を抱えて大袈裟なリアクションを見せる。
一人で大層楽しそうである。

・・・・あ、万事屋の旦那なら、何か面白い事知ってるかも。

不覚にも、総悟はそう思ってしまったのである。
「旦那。」
まだ楽しそうに?うだうだとぼやいている銀時の肩を、トントン、と叩く。
銀時は不機嫌そうに眉間に皺を寄せてようやく動きが止まった。
「あァ?何だよ、これ以上時間はやれねェって・・・」
呆れた表情で肩を竦めながらそう言うのを最後まで聞かず、思いついた言葉を放つ。

「楽しいこと、しやせんかィ?」

暫しの間。
銀時は面白いほどにポカンとした顔を見せた。
唖然、呆然、愕然・・・どれも言い得て妙だ。
魂が抜けたかのように、色を失っている。
そして数十秒の後、
「はいィィィィ?!」
と言う、壮絶な絶叫を上げた。
町中の人々が振り返る程の大音量だった。
銀時はその後、激しく狼狽した。
おろおろと挙動不審な動きをしながら、しどろもどろである。
「ちょ、ちょっと待て!落ち着け、落ち着きなさい、沖田君!」
「落ち着いてますけど。」
「俺にはそんな趣味無いし、大体、警察機構の人間がそんな・・・
い・・・いやいやいや!そこじゃない!そこじゃなくて!!」
何を勘違いしたのか、赤くなったり青くなったりと忙しい。
仕舞いには虚ろな目で空を見上げて現実逃避まで始める始末だ。
総悟は漸く銀時が勘違いしていることに気付いたらしい。
溜息を吐いてぼそりと呟いた。
「・・・何を勘違いしてるんだか知りやせんが・・・・・。
何か面白い事知りやせんか、って聞いただけなんですけど。」
瞬間、銀時の動作がピタリと止まる。
油の切れたブリキ人形の様なぎこちない動きで総悟の方を向いた。
段々と、焦点が合ってくる。
「そ・・・・そうか、そうだよな。うん、そうに決まってる。
いやそうじゃなかったら困る。困るって言うか・・・。」
まだ動揺しているようだ。
瞳孔が面白いほど揺れている。
その姿にふふ、と笑うと、銀時の服の裾をちょいちょいと引く。
「んぁ?何だよ?」
間の抜けた声で返事をした銀時の目が、漸く総悟の目を見た。
臙脂色の瞳が綺麗である。
総悟は何時にない極上の笑顔で小さく首を傾げると、
「旦那んとこ、遊びに行ってもいいですかィ?」
と言ってから上目遣いで銀時の瞳を見つめた。
銀時は暫し思案した後、溜息を吐いて「仕方ねェな」とだけ呟いた。
嬉しそうにしている総悟を尻目に、銀時はさっさと歩き始める。
その後を、ご機嫌の総悟が追いかけて行った。


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