special

□人魚姫の恋
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お風呂からあがると、私が抱えてきたタオルしかなかった。


「今日も…か…」
私がお風呂に入ってる間にきたさんが私の下着を選んで用意しておいてくれて、私がそれを身に付けるのが、きたさんの家にいるときの私ときたさんの約束、きまりごとだった。


でも少し前からきたさんは時々、私の下着を揃える事をしなくなった。
そう言うときは、パジャマをそのまま着たり、タオルを巻いたりしてきたさんの所に戻るんだけど。

どうせ脱がすから意味ないって思ったのかな
汚れて着替えたら洗濯するのは、きたさんだし
最初は正直者には見える、なんてふざけてたんだと思ってたけど

面倒くさいのかな、そういうの。

面倒くさいよね。
私の下着なんか悠長に買いに行く暇もないだろうし。
あの人にサイズの違う下着が見つかって修羅場になったりもしたかも


それならもう…やめてもいいのに。。
こんなの。
彼女いるのに。
私はなんなの。
こういうの、浮気相手って言わない?

でも、待っててくれるんだもん。
きたさんは。
私が、やめたくないんだもん。
きたさんの瞳に少しでも映っていたい


このままお風呂場から出ずにハンストしてやろうか。
そしたらあの人はどうするかな。
パジャマもルームウェアも何もない。
もし今地震でも起きたら
私は裸のままここで逃げられない。

やだ、何考えてるんだろ。



そうだ、それならもうどこにも何があっても逃げられないように
何も身につけずに出ていこう。
そしてきたさんも、脱がせてしまおう。
そんな姿なら、きたさんは私を置いて何処かに行ったりしないだろう。

今この瞬間だけでいいから


二人だけでいるとき
それはとても短いけど



「きたさん」



きたさんは驚きもせず、私をただ眩しそうにみた。
私はその服に手を掛ける。



「凄くきれいだよ、ちぎちゃん」
そう言われた気がした。



よく聞こえなかったのに
なんだかそれが嬉しくて



「どうしたの?、私、何か言った?」




ぼろぼろ泣いていた
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