銀魂

□優しさは時にひとを狂わせる
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『__君の声も、姿も、癖も思い出も、いつか淡く儚く消えてしまうのでしょうか。嗚呼…縋る手で君の面影を追う私の、何と哀れなことでしょう__』

低く響く歌声
テノールの声は淡々と音を紡ぐ
無表情に無愛想に、エルはただ唇を動かす
歌っているというより、それはまるで語っているようだった
だというのに、それは確かに悲哀と諦観を滲ませている
ふと、歌声が止んだ
同じテノールが、笑みを含ませた声色で言う

『…盗み聴きたァ随分とイイ趣味だなァ、山崎』
「えっと、そんなつもりはなかったんだけど…聞こえちゃって」

縁側に座り、自分を振り向きもせずにそう言う彼に、山崎は少し気まずさを感じながら苦笑する
それに鼻を小さく鳴らしただけで何も言わないエルに焦れて、なんとなくを装って問いかける

「綺麗な声だね。歌好きなの?エルくん」
『…嫌いではねェよ』

何だか寂しい歌だね。
そう続けようと思った山崎は、自分を見ることなくただ前を見るエルの横顔を見て、口を閉じた
口元には、相変わらず軽薄な笑みが浮かんでいる
けれどどこか、その様は痛々しく感じられた
何か声をかけるべきかと悩んだ山崎だったが、それを杞憂だと言うようにエルが口を開く
今度は、その視線は山崎を捉えていた

『しかしまァ仕事熱心ですねェ?まァだ俺のこと調べてンのかよ、オマエ』

その言葉に、山崎は苦笑しながらエルの横に腰掛けた
やっぱりバレてるか…などと呟く彼に、エルは なめンなボケ、と返した
また少しの沈黙ののち、山崎が続ける

「…エルくんってさ、」
『あン?』

言い辛そうに、しかしハッキリと山崎は問うた
そんな山崎を、エルは横目で見る

「エルくんって、一体何者なの?」
『……』
「だっていくら調べても何も出てこないし…あ、別にどっかのスパイとか疑ってるわけではないんだけどね?」

焦ったように言って、もう仲間なんだし。と続ける彼をエルは鼻で笑った
その言葉は、彼にとってはあまりにも稚拙に思えた

『はン、仲間ねェ…』
「エルくん?」
『…俺ァ、__』
「え?」

小さく呟かれた言葉は、強い風に掻き消された
咄嗟に聞き返した山崎に、エルは意地悪く笑う

『俺のこと知りてェなら俺をオトしてみろよ。 そしたら、俺のゼンブを教えてやるから…なンてな。きひッ』
「っえ」

おもむろに立ち上がってそう言い、山崎の髪をわしゃわしゃと撫でて去って行くエル
残された山崎は、数分そこで呆気にとられていた









『__こうも私を縛るのなら、いっそ其の手で抱き締めてくれれば良いのに。…苦しいだけ。なのに如何して、こんなにも貴方に逢いたいのでしょうか__』

呟くように歌う

『__貴方と寄り添い生きてきた私には、独りで歩くことすら儘ならない。なのに誰かの温もりすら受け入れられない__』

想うのは、大切なヒト

『__独りは怖い。でも愛さえも私を苦しめる。貴方が居ないと私はきっと、如何にもなれないのでしょう__』

恨むのは、
憎むのは

『…影人__』

__ごめンな。

囁くような弱々しい声は、闇にのまれた






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