古いモノをお望み?

□熱い季節には貴方の低体温が最適ね。
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 「……暑い……」

 セミの鳴き声が外に響いていた。

 彼女は暑さにかなり弱く、この頃は外に一切出ずにエアコンがガンガン利いている部屋に引篭りっきりになっていた。

 そんな中、彼女の部屋にはない筈の黒いロングコートが目に映る。


 「こんにちは」
 「何で私の部屋に居るの引っ込みなさい黒スナフキン。」


 ご機嫌ナナメだった彼女は、すかさずナイフを黒スナフキンこと赤屍蔵人に投げ付けた。


 「クス 今日はずいぶんとご機嫌が悪いようですねえ」


 だがあっさりと投げ付けてきたナイフを受け止め、赤屍は微笑を浮かべる。


 「不法侵入者が五月蝿いわよ。
 こんな季節に合いも変わらず暑苦しい格好して何考えてるわけ?見てるとこっちまで暑苦しくなってくるわ。
 さっさと私の前から消えてくれない?」


 目を眇めてそういう彼女に、赤屍はクスッと笑いながら近づいてきた。


 「つれないですねえ…
 せっかく貴女がこの季節に弱いことを聞いて、心配だったのでお見舞いに伺いましたのに……」


 誰から聞いたんだ。

 心の中で突っ込みながら目の前に立っている赤屍を睨み上げる。


 「いい迷惑よ。消えろって言ってるのが聞こえないの?」


 乱暴に髪を掻き上げる彼女を、赤屍は目を細めて見つめる。

 不意に赤屍の手が手に触れた。

 冷たい手に少しばかり気持ち良さそうにしていると、まるで騎士が王女にでもする口付けをされた。


 「…赤屍…何のつもり?」


 手の甲に口付けられた彼女は、眉を寄せて赤屍に問いかける。

 赤屍にっこりを微笑みを向けると、今度は頬を包み込んで囁いた。


 「貴女の体温は温かいですね。」
 「そっちの体温が冷たすぎるだけでしょ?」


 再度微笑んで、赤屍は彼女の前髪を掻き上げ額に口付けた。

 今度は無表情に戻った彼女が赤屍の頬を包み込む。


 「…この季節には、貴方の体温は冷たくって気持ち良いわね。」
 「おや、それは光栄です。何ならずっと抱いていて差し上げましょうか?」
 「遠慮しとくわ。」
 「残念ですねえ…」


 クスッと笑うと、赤屍の唇が唇に触れた。

 珍しく拒絶せずにされるがままになっている彼女に小首を傾げる赤屍。

 いつもなら互いの唇が触れる前に双剣を押し付けられるはずなのだ。


 「今日はずいぶんと素直ですね?」
 「‥‥あいにくと今、双剣身に着けてないから。」
 「なるほど。」
 「今日はかなり暑いし、貴方で涼ませてもらうことにするわ。」


 意味深に笑んだ赤屍に珍しく微笑を向けて、彼に身を任せたのだった。




 熱い季節には貴方の低体温が最適ね。







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