短編1

□王子の接吻如きで姫が蘇るなんてあんなの大嘘ですよ?
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私はごく平凡な家庭に生まれた平凡な少女です。非凡が主張できるとしたらそれは雲雀という名字です。いえ、厳密には名字ではなく…。えぇ、雲雀と聞けばまず皆さん大凡(おおよそ)、平凡からかけ離れた方を思い浮かべることでしょう。それは私の兄、雲雀恭弥です。兄は、昔から変わっていました。何が変わっているって、まず、あの金属製の棒を振り回して喧嘩に明け暮れるところとか。群れてると称しては暴力に訴えてしまうところだとか。しかしそんな兄でも、私にとっては、兄でしたから。兄を私は恨んだこともありました。この腕にある古傷は、兄に恨みのある人間から、報復としてつけられた傷です。もちろん一生消えません。こんなことはしょっちゅうでした。でも兄は、私が悪意を持った他者によって傷つけられたときは、思わず目を背けてしまうような報復をするのだから、私はもう複雑です。

私も両親も普通でした。だからこそ、兄が怖かった。しかし兄が本当は私たち家族をちゃんと思ってくれているのは知っていました。例え兄のせいで因縁をつけられ、襲われようとも、虐められようとも、兄は何時も堂々としていました。私や両親に一度も謝ったことはありません。だからいつしか私も、兄のことをあれこれ言わなくなったんです。風紀財団なんてものまで立ち上げちゃって、ちょっと変わった兄だけど、すごく強くてすごくカッコ良くて……恥ずかしくて言えなかったけど自慢の兄でした。成人しても妹である私がそう思えるのですから、平凡な私には信じられないような兄でした。


「お兄ちゃん…」


それでも私が兄のせいで死ぬとしたら、私は兄を恨む権利がありますよね。でもこんな兄の表情を見たらやっぱり恨めそうにありません。だって大好きなんです。本当に平凡な私には信じられないような非凡な、ついでに非常識な兄でした。だから私はこんな若さで病死でもない、事故死でもない、死に方をするんですよ。


「ごめん…」


普段は嬉々として金属棒をふるって(兄にとっては本当に普段ですから)、返り血を浴びる兄に、絞り出すような声で、ごめん、と言われたら、私は、笑うしか、ないじゃない、ですか。変なの、って。



王子の接吻如きで姫が蘇るなんてあんなの大嘘ですよ?
(だから、私が、死ぬまで、後少し、お兄ちゃん、手を、握ってて)








企画提出先:一角獣ハート
Grazie!\(^O^)/

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