◆朱の書◆

□第8話:生命の流れに乗って
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白い景色の中で立ち尽くす私。
目の前には大きな銀の龍がいた。


「あなたはだあれ?」


龍は答えない。
しかし、腕をゆっくりとフィオナの頭にのせた。
それはとっても温かかった。


「フィオナ………私の可愛い娘……。」
「お父さん………?」


いつの間にか私はあの銀の龍ソックリになっていた。


「あら?フィオナ、おはよう。」


朝の5時。
毎日あの夢を見るようになった。
一体、なんだったのだろうか?
心地が良いからつい寝坊してしまうけど。


「もうすぐイタチ君のお庭番試験だからねぇ………。」


パンをほうばりながら今日のメニューを考えていた。
指導する側とし教え子の成長は楽しみの一つだ………。


「あ……あんまり無理させないでね?身体壊したらご両親に申し訳ないから………。」
「は〜い。」


私は、朝食を食べ終えて外に出た。


「大丈夫……かしら…………。」

喫茶“和月”


「あら、フィオナちゃん。いらっしゃい。」
「珍しいな。こんな時間に………。」
「フィオナさん。いらっしゃい。」

喫茶店に入る私を迎えたのはマスターの沙耶さんとドールちゃんに帝都書庫の薫ちゃんだった。


「薫ちゃん?なんでここにいるの?帝都書庫は?」
「あれは“副業”です。“本業”はここのウェィトレスです。」


胸を張って答える薫ちゃんだった。


「コイツが割った急須の弁償代稼ぎだ。アキに頼まれてな。」


ドールちゃんはお茶を啜りながら答えた。


「あぅ……、い……言わないでください!!」
「どうせ、“書庫”にいても“名誉副司書長”だから好きな絵本を読むくらいだ。むしろ、社会勉強になっていいだろ?」
「そりゃ、まあ。」
「ま、幼稚園児にしてはよく働く方だ。その点だけは胸を張って良いぞ?」
「厳しいんだか、優しいんだか………。」


私はやれやれと呟くとドールちゃんは呆れた顔でこう言い返してきた。


「私に言わせれば、お前の方が“厳しい”と思うが?」
「なんでよ?」
「イタチの修行メニューを雪浩から聞いたが、あれは小3のするメニューじゃないぞ?」



はて?そんなにキツくした覚えは無いんだけど?


「腕立てや腹筋が100回の5セットってどこのボディビルダーなんだ?痛覚が無いからってやりすぎだろ?」


私は盛大に椅子からずり落ちた。


「ちょっ!?そんなに!?やらした覚えは無いよ!?せいぜい100回1セットだからね!自分でも出来ない事、させるわけないじゃない!?」


あの子、また無茶してるの!?


「アイツには“理論”を教えた方がいいんじゃないか?絶対、鍛えた量に比例して強くなれると勘違いしているぞ?」


うぅ、それって雪浩先生の教え完全無視じゃない……。
一応、お庭番クラスでは体調管理や筋力トレーニングの“理論”を教えている。
私はもちろん、雪浩先生だってイタチ君に注意しているのだ。


「ドールちゃん。隙を見て彼にこの“眠り札”張りつけてきて。」
「それは構わんが、魔法札は高いだろう?」


小学校の小遣いやお庭番の報酬で賄えるほど魔法札は決して安くない。
上級魔法は言わずもがな、だ。
使用免許ないけど。


「構わないわよ。どうせ、“軍の余り”だし。」
「何気にヤバい事を聞いた気がするが……いいだろう。」



「そういえば、さっきから気になってたけど、その首飾りはなに?」


沙耶マスターは私の勾玉に気が付いた。


「コイツの勾玉らしいぞ?8個とは随分と豪勢な話だな。もっとも、その勾玉が“使えたら”の話だが………。」


どうやら只の飾りだと思っているみたいだ。


「まあ、“使える”みたいだけど、“使い方”がちょっと…………ね。」


その言葉に反応する三人。


「???“使う”って?」


疑問符を浮かべる沙耶マスター。
純粋に“勾玉”を知らないらしい。


「ほう?」


目付きが鋭くなるドールちゃん。
この子なら何を知っててもおかしくないのだろうけど………。



「凄いですね。8個だと威力も8倍なんですかね?」


分かってるのか判別しづらい言葉だよ、薫ちゃん。


「“帝都書庫”の資料によれば“勾玉”は“感情”に反応するらしい。“戦闘”になればあるいは………。」


あらら、なんか思考の迷宮に入っちゃったよ。


「さてと、今日は“学校”も“修行”も休みだし、なんか“仕事”ないマスター?」
「言葉だけ聞くと“ダメ親父”ね。」


そんな時だった!!


「スンマセン!!人下さい!!」


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