◆朱の書◆
□第7話:されど、時々厳しさも
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「ふむ、相変わらずいいお茶じゃ。」
その少女はマスターの入れたお茶を啜っていた。
「えっと、“ドール”ちゃん。何の用………かな………?」
琴華ちゃんがオズオズと聞いてくる。
「別にお主には用はない。」
「随分冷たい反応ね………、ってなんで琴華ちゃんは怯えているの?」
その質問には雪浩先生が答えてくれた。
「いやな、先月からコイツはイタチにチョッカイかけてたんだが、反応鈍いもんだから琴華と真希奈に手を出したんだ。」
「一体、あんた何やってんのよ…………。」
私は大きくため息をついた。
「何、ちょっとイタチに“ホーリー・ブレイク”を…………。」
「待てやコルァ!?殺す気?殺る気満々だよね?ソレ!?」
余りの強力な魔法に事の重大さを認識した。
「まあ待て。問題はソコじゃない。現にイタチは生きておるだろう?」
「一番焦っていたお前が言うなよ。」
聞くところによると、琴華ちゃんや真希奈ちゃんを人質にしてイタチ君の実力をはかっていたらしい。
「まさか、おどしのつもり放った“ホーリー・ブレイク”に突っ込んでいくとは想定外じゃ。」
「つまり、それが殺傷力のある魔
法と知らずに突っ込んだ訳?」
「コクリ………。」
「まぁたこの子は危険な真似を…………。」
私はコメカミを思わず押えた。
「えっと、お怒りはゴモッともだが、イタチに関しては琴華と真希奈が泣き落としで説教したから大丈夫………だと思う。道瑠に関してはあの後、イタチにフルボッコされた上に沙耶マスターにお灸を据えられたから…………。」
「ずいぶんと酷い姿ね。」
琴華ちゃんはその時の光景がトラウマになったようだ。
「そんな“昔の話”はどうでもいい。」
「“先月”が“昔”かよ…………。」
「“ミチル”!?あなたまだ反省してないの!?」
これは道瑠の言葉に対する雪浩先生と沙耶マスターの反応。
「実は、お主に用があって来た。“フィオナ・レフィス”。」
「人の名前はちゃんと覚えておきなさい。私は“響・フィオナ”よ。」
二人の言葉をスルーする道瑠にきちんと訂正するのが“私クオリティ”。
「……………そうか………。」
なんか哀愁のこもった言葉をお放ちになりました。
「で、何の用なの?」
「わしを明日、“帝都書庫”へ連れていって欲しいのじゃ。」
「マスター………。今日はなんか“仕事
”ない?」
「おぃ………。」
「なんで私があんたをそんなところに連れていかなきゃいけないのよ!!」
しかも、頼み事する態度じゃない………絶対に。
「報酬は出す!!だか連れていってくれ!!」
おっと、頼み事じゃなくて仕事の依頼とは私………想定外…………。
「本来なら、そこのボンクラに付き添いを頼むところだが、明日に限って“メンテナンス”ときた。」
雪浩先生は口笛を吹きながら顔を反らした。
「なら、次の“休み”でいいでしょう?」
「明日でないと意味がないのじゃ!!」
なんか、焦っているみたいだ。
イタチ君が道瑠ちゃんを睨んでいる気がするのは気のせいよね?
「はぁ、分かったわよ。連れていけばいいんでしょ?」
私はその依頼を引き受ける事にした。
「す………すまぬ。恩に着る。」
私の言葉に安堵したのか一息ついた。
「すまぬが、明日頼む。わしは沙耶マスターと雪浩に話があるから…………。」
どうやら、私とイタチ君達には聞かれたくない話らしい。
「じゃあ、帰りますか………。」
「それにしても………本当にあの子、イタチ君と同じ年なの?ちょっと信じられないわね。」
「アハハハ…………。」
「あ〜………えっと…………。」
沙耶マスターと雪浩先生は乾いた笑いをするだけだった。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
家に帰ると母さんが出迎えてくれた。
「母さん。明日、帝都に行くから。」
「そう……明日はお父さんの命日だから夕方までには帰ってきてね。」
「うん。」
忘れていた。明日はお父さんの命日だった……。そして私の……。
「夕方までには……帰るよ。だから母さん……。」
それ以上は言えなかった。余りにも母さんの顔が寂しそうだったから……。
「美味しいごはん、準備してね。」
私はやりきれない想いを押し込めた。
「はいはい。」
私はすぐにお風呂で全身を洗いながした。もちろん、染めた髪もだ。
今、お父さんの事で悲しんでいるなら髪を染めていても意味がない。染料はやっぱり気持ち悪いし……。
「そう言えば、誕生日をちゃんと祝ってもらった事なんて無かったなぁ……。」
響・フィオナ……。
本日9歳、明日で10歳……。
明日からはきっと違う生活が来る……はず。
「ごはん食べて寝よう。」
いつもの1日が終わった。
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