◆朱の書◆

□第6話:時には受け入れる優しさを
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第6話:時には受け入れる優しさを


ジリリリリ!!


「ふあぁぁ〜〜。」


朝早く鳴り響く目覚まし時計を止め、体を起こす。

洗面所で洗顔、歯磨きを済ませ髪の毛を金色に染める。

あれから2年が経過した。
以前は数本程度だった銀髪も今では、全体に広がり、逆に金髪が数本を残すのみとなった………。
鏡で違和感がないか確認して家を出る。


「行ってきま〜す!!」


余談だが、達兄は勝手に部屋に入らなくなった。
以前、氷の魔法札を“銀髪状態”で放った所、意識不明の重態となった。
乙女の部屋に無断で上がり込むなど言語道断だが、事件を揉み消すのに相当苦労したらしいのか、母さんとおじさんにコッテリ絞られた。


「おはよう、由希ちゃん!!透ちゃん!!」
「おはよう、フィオナちゃん!!」
「今日も元気だな。フィオナは………。」


二人とは相変わらず、親友を続けている。

昨年、昇進試験に無事合格し3人そろってDクラスとなった。


「おはよう!!フィー姉!!」


最近、イタチ君達からは“フィー姉”と呼ばれるようになった。


「おはよう、イタチ君……、琴華ちゃんに真希奈ちゃんも………。あれ?雪浩先生は?」

イタチ君達は今月、お庭番採用試験を受験する事になっている。
三人共、真希奈ちゃんの家の道場で雪浩先生から剣術の稽古を受けており、雪浩先生から受験の許可をもらうそうだ。


「お父さんなら職員会議があるからって、早めに出ていったよ?」
「ふ〜ん。学年主任も大変よねぇ…………。」


雪浩先生は今年、三年生の学年主任に選ばれた。
圧倒的な処理速度を買われてイタチ君のクラスの担任とお庭番指導官を兼任している。

さて、近況報告はこのくらいにして本題に入りましょうか………。
Dクラスに昇進したばかりの私に困った事態が起こりました。

それは、放課後………喫茶“和月”での事。
雪浩先生から“頼みたいことがある”と持ちかられた話なのだが…………。


「実は、イタチの訓練を見て欲しくてね。」
「えっ!?」


私は驚いた。


「今度、イタチがお庭番試験を受験することは知っているだろう?」


雪浩先生はイタチ君の剣の師匠なのだ。なぜ今更、私が彼の訓練を?


「先輩お庭番に教えを乞うのは互いに学ぶべき点があると思うんだが………。」
「彼の実力なら確実に合格できますよ?」

「“剣”の腕だけならな。だが、それだけで合格出来るかな?」
「それは、“教師”の言葉としてはどうかと思いますが?」


それは私がやるべきことじゃないのだ。


「それに、雪浩先生が出来ない事ですよね?私なんかに出来ると思っているんですか?」
「出来ると思うから頼んでいる。」


あっさり即答された。


「と言うより、“Dクラス”は部下の指導も仕事の内だ。これくらいやってもらわなきゃこちらが困る。」


それが出来ていないあなたはどうなんですか?と、問い質したくなった。
しかし、次の言葉に耳を疑った。


「それに…………どうやら、俺は彼に嫌われているようだからな…………。」
「えっ!?」


イタチ君が雪浩先生を嫌っている?


「頼む。俺の“言葉”じゃアイツには届かないんだ…………。」


こんな苦しそうな雪浩先生を見るのはいつぶりだったか………?


「分かりました。出来る限りの事はやってみます。」


私はそう返事した。


「頼む。アイツを救ってやってくれ。」


この言葉を私は時の流れの果てに裏切る事になるとは夢にも思わなかった。



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