◆朱の書◆

□第2話:青眸の銀龍

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「でさぁ〜マスター。雷の魔法札を直接傷口に突っ込ませたのよ。」


私は学校の近くにある喫茶店“花月”に来ている。


「無茶するわね。自分も感電するでしょ?普通に傷口に投げつけたら良いでしょう?」



基本的にお庭番に守秘義務は存在しない。
機密事項を扱うのはBクラス以上の人間だからだ。


「マスターみたいな優秀なお庭番ならともかく、私じゃムリムリ。」


実はマスターは昔、Aクラスとして活躍した女傑であり、“大和の戦女神”と言う二つ名をいただいている。

今では和服の似合う普通の主婦にしか見えない。


「アホか。その程度ができないくせにDクラス目指すなんて言うなよ。」


逹兄が喫茶店に入ってきた。


「いらっしゃい。逹也君、何にする?」

「マスター。いつもの奴で。」

「はい。コーヒー無糖ミルクのみね。」


「逹兄、よくそんな苦いのを飲めるね。」

「お前は大人しくオレンジジュースでも飲んでろ。」

「むっ!?失礼な。私だってコーヒーくらい…………。マスター、コーヒー薄めでミルクと砂糖タップリで。」

「だったら。ホットミルクでいいんじゃね?」


逹兄はため息をついた。
「聞いたわよ達也君。今回の任務も負傷者0だってね。」


逹兄は先程、任務を終えたばかりだ。


「まあ、中村先生や雪浩先生の指揮が良かっただけだよ。」


今、逹兄の班はこの地区の隊員負傷率が最低なのだ。


「0%が理想なんだけどね。」

「どうせ、私は毎回負傷してますよ………。」


私はいじけるように机に“のの字”を書いていた。


「で、マスター。何かいい“情報”はない?」


お庭番に関する情報は本来、学校にある端末で見ることになる。

しかし、マスターのように元お庭番が喫茶店を開き、免許保持者に開示している。こう言った喫茶店を“サロン”と呼んでいる。


「そうね。これなんてどうかしら?」


端末に表示されたのは…………。


「運動公園周辺における魔物警戒任務?」

「しかも、魔物の持ち物は持ち帰り可よ。」


本来、学生にお金を出す行為は禁じられており、昔は募集しても集まらなかったのだ。

しかし、倒した魔物の死骸や持ち物を引き取る商売が成立しはじめてからは小遣い稼ぎを目的に募集に応じるお庭番が増えたのだ。


そして、達也は決断した。


「参加してみるか…………。」


「う〜ん。私はどうしようかな?」

「何行ってるんだ?お前も来るんだよ。」


当たり前のように逹兄が誘ってきた。


「えっ!?いいの?だって私………。」


私がいつも怪我をするから逹兄の隊員負傷率を上げているのだ。


「ば〜か。」


逹兄は私の頭をポフポフと叩いた。


「負傷率を上げるためにお前を外す真似は卑怯な手段だよ。

それに負傷率最低の“名誉”もおまえを怪我させない“指揮”をしてこそ意味があるんだよ。」


「お兄ちゃん………。」


今の逹兄はちょっとカッコ良かった。


「まあ、毎回おまえが無茶しなければ簡単に達成できるけどな。」


前言撤回…………。


「やっぱり、殴っていい?」

「一応、喫茶店だから………ね?」


暴力行為はノーサンキューである。



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