◆朱の書◆

□第1話:波乱の入学式
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私の眸(ひとみ)は澄んだ空色………それは空を駆ける王者の証。

私の髪は輝くような黄金色………それはまだ子供の証。

誰かが教えてくれた。でも、忘れちゃった。

お母さんに教えたら泣きながら抱き締めてくれた。嬉しそうな………そして、どこか悲しそうだった。そんなお母さんの顔が見たくなくてその話はしなくなった。あれから…………。


「起きろ!!フィオナ!!」

「ブヒャイ!?」


いきなり耳元で怒鳴り声が響く!!懐かしい夢の世界から見事現実に拉致してくれた不届き者は…………。


「達兄!?」


彼の名は響達也。お母さんのお兄さんの息子………つまり従兄妹なのだ。


「朝御飯出来たぞ。お庭番の朝は早いんだ。メシ食わずに行く気か?」

「っていうか、鍵掛かってたわよね!?」


達兄はヘアピンを見せる。


「信じられない!?普通“レディ”の部屋の鍵をこじ開ける!?」


達兄は視線を少し下にずらし、再び顔に戻す。


「へっ…………。」

「(プチン)うが〜!!」


「さてと、フィオナの家はここだったな。」


ちょうど、入学式の警備の打ち合わせの為に、フィオナと登校しようと響家にやってきた雪浩。
「そこへなおれ〜!!フィオナちゃんが成敗してくれる〜!!」
「まだまだ動きが甘い!!」

「相変わらず仲がいいな。」


ダハコをくわえた雪浩が、二人の喧嘩を見ながら呟いた。

「そうそう、歩きタバコはみっとも無いから真似するなよ。」

「誰に向かって言ってんの?」

ボロボロになったフィオナを引きずり達也がやってきた。

「“大人の事情”ってやつさ。」

雪浩は肩を竦めた。

「これが、入学式の警備計画だ。」

雪浩先生を家に招き入れ、早速打ち合わせを始めた。


「へえ、お庭番と軍が合同で警備するのね。」

「昔は軍だけでやっていたんだが、学校が多いから市町村毎に纏めてやったんだ。」

「しかも、小規模の村は隣村と合同だったから大変だったよ。」


それでも、軍の人員が足りないから1日ずつずらしても一週間かかったらしい。お庭番が警備に加わってからは半分に短縮された。


「今回は中村主任がお庭番側の総指揮者になる。達也は北側の警備副班長になる。」

「了解。班長は雪浩先生でいいですよね?」

「ああ、それと東西南の副班長と連絡をとっておけよ?」


雪浩先生と達也お兄ちゃんは次々と当日の動きを詰めていく。
「でさぁ、あたしは?」

私の名が出ないことに不満が溜まっていた。

「“下っぱ”のくせに何を言う?」

「“下っぱ”は黙ってろ。」

「なんで!?翔吾君は仕切ってたじゃない!!」


以前の任務で翔吾がリーダーだったことがあった。

「あれは正式な任務じゃないぞ?確か、トメばあさんの指示じゃなかったか?」

「俺は翔吾を知らないが、新人がリーダーになって何かあったら責任とるのか?」

「うっ!?そ………それは…………。」


椿達“ブルースパイス”とやりあったのだから死者が出てもおかしくない任務だった。


「それにあの時は御影と文子がヘタれだったからだ。あれは出世しないな。」

「うわ………なんか可哀想。先輩達…………。」


フィオナは顔も思い出せない先輩二人をぼんやり思い浮かべた。なぜか怒っているような姿だが。


「取り敢えず、フィオナは魔物を見つけたり、負傷者が出たら報告。自分勝手な行動は慎み、達也や俺の命令に従えよ。」

「魔物ってのは言うこと聞かない奴から狙うからな。」


一対一では魔物が有利なのだ。集団によるリンチ………もとい、各個撃破は戦闘の基本だ。

「へ〜い。」


それでも、不満が残る。


「悔しかったら昇進試験に合格しろよ。」

「うっ!?去年昇進試験に落ちたばかりなのに…………。」


もちろん、お庭番にも階級がある。

選抜されてから半年はお庭番見習いとしてGクラスになり先輩お庭番の研修を受ける。

そして、ようやく研修が終わるとFクラスになる。

Fクラスで三年以上経験を積むとEクラスとなり、Dクラス昇進試験受験資格を得る。

D・Cクラスは任務でリーダーになる事が多く、困難な任務等ではBクラス以上の人間をリーダーとして任務にあたる事もある。

Bクラス以上になると事務職と現場職に分かれ、正式にお庭番組織への就職が認められる。もっとも更新試験があり、不合格になった時点で降格になる。

因みに、雪浩の場合はBクラスでありながら教職員をしている。

これはお庭番に限り、公務員を含む他職種との兼職が可能になっているからである。

余談だが、たった三年半でEクラスからBクラスへ昇進したのは片手で数えるほどらしい。

雪浩の場合、特例でEクラスからスタートしている。つまり年一回の昇進試験に一発で合格しているのだ。


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