BL

□甘酒
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「桜が咲いたら花見に行こう」

佐助の飯と団子を持って、少しだけ甘酒を交わそう。
まだ早いと言われるだろうが、早くお館様と酒でも勝負できるようになりたい―――。


熱のこもったまなざしで、庭に広がる桜の蕾を眺める幸村。
この人の全てが師に繋がり、この人の行い全てがあの人の為に結びつく。
そんな事は今更過ぎて慣れてしまった。
しかし佐助にとっては何故そんなにも他人に執着できるのか、未だに少しだけ判らずにいた。

確かに武田信玄という男は頼りになる大将で、幸村が尊敬するに値する人物だとは思っている。
だがこの考えこそが忍にとっては矛盾しているのだった。
忍びにとって主は絶対で、この何に変えても守らねばならぬもの。主のために動いて死ぬ。
それが忍にとって最高の死に方だと教えられてきた。そして佐助自身も、そう信じてきた。
けれどその一方で、誰かに執着する事を堅く禁じられてきたのも事実で。

忍は影の術を使役し、闇によって行動する。
堂々と戦場で戦をする武将たちとは違って多くの恨みと怨念を向けられる。
忍はその分大切な物を、私情での特別な何かを作ってはならなかった。
弱みにつけ込まれて『優先事項』を誤る可能性があるからだ。
それは忍にとっての死を意味すると共に確実に仕事の出来ない忍はもう、忍として生きてはいけない、と言う末路を暗示していた。
たとえその対象が仲間だとしても、裏切るのも裏切られるのも、忍の世界では常識すぎて例外にすらなりえない。

「……それに」

佐助の長い思考を遮ったのは、隣に座る幸村の穏やかな声だった。

「それに、佐助と早く飲めるようになりたいと思っておるからな……、ずるいではないか」
「…いや、ずるいとか言われても。それに忍はそんなに飲みませんよ〜? 実際俺様以外の忍は任務以外では滅多に飲まないし。ま、みんな酒には強いけどさ」
「飲まぬのに強いのか?」
「じゃなきゃ酒の場の任務の時に情報聞き出せないでしょ? だから心配しなくても、大将と飲むのはそんなに無いって。旦那もすぐに大将と飲めるようになるよ」

強いのに飲まないのは、常に気を張らせておくべき忍が酒を飲んで気を緩めてはならないからだった。
この場合、よほどの自信と実力がない限り、仲間同士であっても飲むことはない。
それを判っているのかいないのか、幸村はまだ納得できないと言った顔だ。
けれど佐助の言うことに嘘偽りはないと言うのは判っているのか、もうそれ以上言葉を挟まなかった。
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