理屈じゃない

□自転車で描く虹色の軌道
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自転車というものは、便利なようで不便なんだなぁ。

僕は隣でペダルを漕ぎながらゼィハァ息を切らしているトグサくんを見ながら思った。
ジャンケンで負けたトグサくんは一人頑張って坂を上っていた。勝ったバトーさんたちは(と、いうかバトーさんたちにジャンケンで勝とうなんて無謀だと思う。トグサくんの思考パターンはもとより、動体視力が並みじゃないもの)さっさと車を走らせて行ってしまった。
僕はバトーさんに言われて仕方なくトグサくんに付き合っている。
―なんて言ったら、トグサくんが怒るから言わないけど。

坂の向こう側が見えないほど大きく決して緩やかではない坂を、ゆっくりと上る。
太陽が眩しい。右手に見える海は、アクアブルーにキラキラ光って綺麗だ。
あの夏特有の蒸し暑い空気が肌を撫でる。僕は数値で分析するだけだけど、何だか楽しかった。

アスファルトの照り返しがキツイから、生身のトグサくんには辛いだろうなぁ。
―これも言ったら、トグサくんは怒るから言わないけど。
僕は怒ったトグサくんをシュミレイトしてこっそり笑った。
そうしながらバトーさんを思い出す。
僕は万が一の保険だ。トグサくんがばててしまった時の運搬係。要らないと思うけどね。
あとは、寂しくないようにお喋りするのです。
バトーさんは優しいなぁ。
僕は真っ青な空を横切る真っ白な鳥を眼で追った。
ローラーはスムーズに道を走る。隣ではタイヤがちょっと軋む音。
坂だからか、ちょっとオイルのヘリが速いな、なんて思いながら僕はトグサくんの横を走る。
ほら頑張って、もう少しで下り坂だよ!

トグサくんがラストスパートをかけた。
それでも僕は一定の速度を保つ。
トグサくんの背中が少し離れる。

そして。

急に開けた視界には、世界が白ばむ程の光の洪水。
木々の翠は鮮やかに眼に優しく、海の蒼は何処までも青く、空は涙が出そうになるほど広い。
僕は思わず手を伸ばした。
掴める筈がないのに、手が届きそうな気がして。


「行くぞタチコマ!」


大きな声で僕を呼んだトグサくんは、ペダルから足を離した。
ぐんぐん勢いをつけて坂を下りていくトグサくんは、あっという間に小さくなる。
あぁ、バトーさんの視点だ。
僕は嬉しくなる。
慌ただしいポイントマンを持つと大変だなぁ!

僕はもう一度空と海の境界線を見遣り、トグサくんの残した自転車の跡を辿った。






自転車で描く




タチコマが自然の中に居る姿を書くのがすきかも。








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