理屈じゃない

□危険か冒険か【Risk】
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「いいから任しとき」


手慣れたそれに彼への疑惑は深まりこそすれ薄まることはなかった。
信頼なんて彼の実力にこそあれ、人柄には全くない。



危険か冒険か
【Risk】



「見てみんしゃい」

そう彼に言われて、目をゆっくりと開けた。
目の前の鏡に移っているのは仁王の姿だった。ぱちくりと瞬きをする。鏡の中の仁王は驚いた顔をしてた。
ぼやけた視界で鏡ごしに後ろを見る。柳生がいた。柳生が、にやにやと普段けして浮かべないであろう笑みを浮かべて、こちらを見ていた。

「上手いもんじゃろ」

満足そうに笑うその顔はぼやけて見えるが確かに柳生のもので、そこから訛り言葉が出て来るのに酷く違和感を覚えた。
こちらが睨むように目を細めている理由の一つに気付いたのか、彼は柳生の方に近付いてきて、かけている眼鏡を外して手渡した。眼鏡の下の顔はいやというほど見覚えがあるそれだ。

「私はそんな笑い方をしませんよ」

眼鏡をかけて彼を見た。何がおかしいのか彼は笑みを深める。それに柳生の眉間のしわは深まる。

「俺が眼鏡かけて、そんうえ敬語使っちょるっちゅうのもおかしなもんじゃの」

人の話は聞かない気のようだ。楽しそうに笑う彼の顔はまるで子供のそれで、柳生は目の前の自分の中身が仁王であることがよく分かったが、自分の顔と同じだけに奇妙な光景だと思った。

「本当に入れ替わるなんて……気が気じゃありません」
「参謀に許可はとっちょる」

嘘か本当か。後で直接尋ねなければ。彼は信用できない。
まだ何処か楽しそうな彼は、これのリスクが分かっているのだろうか。柳生は眉を顰めたまま仁王を非難の目で見た。

「仁王君、君は」
「君はこれの危険性が分かっているのですか」

先に言われる。彼は本当に自分のようだ。詐欺師の観察力と演技力と、それに向ける情熱に閉口した。

「分かっちょるよ。……ただスリルを伴う冒険するのも良いものだと思いましてね」

口調が変わった。彼は不自然な柳生を自然を演じる。酷くアンバランスに感じられた。それでも彼は柳生だった。酷似しているだけかもしれなかったが、少なくとも彼は柳生としてそこにいた。

(まるでドッペルゲンガーですね)

彼がもしそうだとしたら自分は彼と融合するか、無に帰るしかないのだけれど。
しかし仁王とけしてそうなることはなく、柳生は平行線を辿る。

(……私も彼のドッペルゲンガーになるのですね)

近い未来にはそうなるのだと、ただそう思った。




曖昧な5つの言葉(お題)
む、無理矢理かも……。また入れたい要素無理矢理いれたから変だ……。
つか仁王の喋り方分からん(汗)

拍手用にしようかと思ってたけど、文字数オーバーなようで(^_^;)



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