理屈じゃない

□深層回転
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すきすきすき。
何度も心の深いところで繰り返すのは、幼い表現のその言葉だった。
他の言い表し方を忘れてしまったかのようにその言葉だけが渦巻く。あいつを視界に納める度、怖いくらいに体が疼く。心が騒ぐ。抑えが効かなくなりそうで、怖かった。
こんなに人を好きになったのは初めてで、今までの恋愛が幼子のごっこ遊びのようだったのだと認めざるを得ない。それは青天の霹靂のように俺を驚き震えさせた。信じてきたものが全てまやかしだったかのような虚無感。詐欺師を名乗っとうくせに狐に化かされたみたいじゃき。
涙は出なかった。ただただ狂おしいほどにすきだと、漠然と感じた。

「真田」

俺に視線を向けずに先を促す真田を、やはり俺は愛おしいと思う。末期じゃ。自分でも痛いくらいに解っとる。でも、すきだ。すきなんじゃ。

「好いとうよ」

そっと頬に指を這わして、唇をなぞれば、吐かれる溜息。俺はそれに異常なほどの反応を示す。
吐かれた吐息に心臓を鷲掴みにされた気になるのだ。恐怖と興奮から背筋にゾクリとした感覚が走るのを感じながら、俺はもう一度真田を呼んだ。
この狂った想いをどうすれば伝えられるのか俺には解らんのじゃ。腹の中で繰り返されるのはすきという言葉だけで、何時だって全身全霊でお前を愛しちょるのに、同時にそれを伝えてしまうのが怖い。伝えたら離れられてしまうのではないという恐怖。お前には解らんじゃろう?

「好いとうよ。だから、他の奴とそんなべたべたくっつかんといて…」

参謀と、幸村と、赤也と…。そいつらと笑い合っているのを見ている時の俺の気持ち、解るか?泣きたくなるほどに絶望を感じている。お星さんが全部落っこちてしまった夜空みたいに真っ暗じゃ。光なんて欠片もないん、本当の暗闇。お前は見たことがないだろう。
呆れたような真田の溜息がまた聞こえた。どうしようもなく切なくなった俺は、真田の口を塞ぐ。その呼吸さえ奪い取ってしまうなら、そうしたい。そんな想いを乗せて貪った。
熱い。とても熱いのに。燃えている星の温度など感じられないように、熱いはずなのに、感じない。哀しい。

「そんなに不安がるな」

困ったように微笑む真田は、残酷だ。いっそのこと突き落としてくれれば酷い手段にも出られるのに。

「俺にはお前だけだ」

今の俺には、その言葉を信じるしかないのだ。
今の俺には、その言葉に縋るしかないのだ。

すきすきすき。愛しとうよ。
永遠に木霊するであろうこの想いを、俺の内から出す術を、俺はどうやったら手に入れることが出来るのだろう。










どうすればいいのか解らない仁王。







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